「雨なき日」その5「時は金なり」


その時、炯は皆のいる場所からそう遠くない公園の植木の影に隠れていた。
「へっへっへ…オレが簡単に見つかると思ったら大間違いだぜ…」
すると不意に、炯の後ろから声がした。
「あー、キミ。そんなところで何しとるのかね?」

神様登場!

炯が振り向くと、そこに立っているのは我らが神様!!
「どひゃあ〜〜〜〜っっ☆★☆!!トイレットペーパーのオバケ〜〜〜〜っっ☆★☆★!!」
その声を聞いたウェットティッシュ達は、炯の隠れている植木に向かってやって来た。
「ああっ!炯!!」
「こんなところに隠れていたのか!!」

食らえー!

みんなのあまりの剣幕に、神様は吃驚しまくりだったがみんなは気にせずぎりぎりじりじりと炯に近寄った。炯は、1,2,3とタイミングを計って走り出した。
「待てぇぇぇー!!」
神様はみんなの声にも怖い顔にもまたまた吃驚!とりあえず杖を一振りして不思議な力で炯を捕まえた。

「さあ、辞書を返してもらおうか!」
ウェットティッシュが炯に馬のりするように押さえつけていた。
「知るか!あんな辞書俺の知ったことか…いいっ?」
炯が口答えをしようとしたその時、神様の顔がなんと360度回転していたのだ!
ガラガラガラガラ!
「ぎゃああああ!!変態かこいつはー!」
「待て!逃がしはせんぞ!」
ビュッ、グルグルグルグル!バシーン!!
「うわあああ!」
神様は炯に向かってトイレットペーパーを発射した。逃げようとした炯はあっという間に全身ぐるぐる巻きにされ、トイレットペーパーのミイラになった…。

トイレットペーパーのミイラにされてつるされた炯

ギリギリギリ…!
炯は哀れにもミイラ状態のまま木につるされた。
「父ちゃん、ちょっとやりすぎでは…」
ウェットティッシュが戸惑いの表情を見せると、神様は半ば呆れたような表情をした。
「まだ、分からないのか?」
突然、神様は杖をバットのように構え、炯のわき腹に親の仇でもかと思うくらい思い切り叩きつけた。
バシーーーーーン!!ボロッ
炯の懐から細い棒のようなものが転がり落ちた。
「あっ!俺の杖!何でお前が?!」

「当然、反撃されないようにする為に決まってるだろ!!上手く逃げられれば古道具屋に売り飛ばすつもりだったしな…へへへ!!」
「なんちゅう事を…!!さっきのオヤジと変わらねえな!!」
ウェットティッシュは呆れて言った。先程のグラサン男も怒りに燃えていた。
「ゆ、許せん!!そういう人の道を外れた奴は折檻だ!!」
もっとも、こ奴の場合、元から人じゃ無いけど…(笑)。

火星に代わって…折檻…。

「吐け!貴様何故、人様の物を盗むマネができる!?」
「し、知らん!」
「親にどういう教育を受けた!吐け!」
バシッ!
「ぎゃあああああ!」
グラサン男はサンドバッグのように、吊るし上げられている炯を殴った。園もさすがにこれには見かねて、
「もう良いわ!許してあげて!!」

散々タコ殴りにされてボコボコになった炯は、ヨレヨレの状態で地面に下ろされた。
「炯!命だけは助けてあげるから、これに懲りたらさっさとお家にお帰り!!」
「はいはいは〜い…(へん!オレがそー簡単にあきらめるもんか♪)」
炯は早々に一同の前から姿を消したが、あの様子ではまだまだ懲りてないようである…(汗)。
「それにしても、せがれ。学校の先生からお前が忘れ物を取りに行ったきり戻って来んと電話があったが、こんな事に巻き込まれていたのか」
神様の言葉にウェットティッシュは思い出したように、
「しまった!!そうだったんだ!!」


「忘れ物って何を忘れたの?」
「書写用の筆…間違えて書初め用の筆を持ってきちゃったんだ…」
「あんまり変わらないような気がするが…」
「と、とにかく急いで取りに行かないと!!じゃあそうゆうことでぇ!!」
ウェットティッシュはマラソン選手もまっつおなスピードで走り去っていった…。

「そんな急用があったなんて知らなかったわ。巻き込んで悪い事しちゃった…」
走り去るウェットティッシュの後姿を見ながら園は呟いた。
「それより辞書は…?」
「あ、あそこに落ちてるわ」
園の指した先に中国語辞典が落ちていた。先程、神様が炯を打ち据えた際にウェットティッシュの杖と一緒に飛び出したようである。
「ごめんね、炬。お使いもロクにできないなんて、私ってダメね…」
「済んだ事はもう良い。これから一緒に岸部さんの家に行こう」
「それより私、ウェットティッシュくんの願いを叶えてあげたいの」
「どんな?」
「書写の筆を持って授業に出る…」
「そうだな…今から筆を取りに行って学校へ戻っても、授業は終わってる頃だからな…。よし、叶えてお遣り」
「うん」

園の魔法によって時間は戻された。

園は人差し指を立てると、ウェットティッシュに魔法を掛けた。すると突然、ウェットティッシュの周りの空間が渦を巻いた。
「鳴呼ーーーーーーっっ!!」
ウェットティッシュは渦巻く空間の中を落ちていった…。

ウェットティッシュがふと気が付くと、そこは自分の教室の中。手には書写用の筆が握られ、時間も筆を取りに行く前に戻っている。
「こ、これは…?そうか!園ちゃんは妖精…これは、きっと園ちゃんが魔法でやったに違いない!」
ウェットティッシュは園に感謝した。
「園ちゃん、ありがとう――」


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