「くそーっ!こんなミニサイズにされた上に大事な杖まで無くしちまって…これというのも、あの忌々しい犬ッコロ野郎とチビ助ども(コロポックル)のせい…」
ウェットティッシュがぼやいていると、草むらを掻き分けカマキリが顔を覗かせた。
「しまった!!見つかったぞ!!」
「きゃーっ!!助けてーっ!!」
「待ってくれ、園!!オレは腰が抜けた…」
その頃、コロポックル達はアリのように小さくなってしまったウェットティッシュ達を血まなこになって探していた。例の水色服のコロポックルも小槌の光を浴びた為、元の大きさに戻っていた。
「どうしよう。お兄ちゃん達、見つからないよ…」
「こうなったら最後の手段!!」
「何だ?」
「逃っげるんだよー!!」
「ドアホ!!(怒)」
「冗談だよ!こうなったら踊るんだ!」
「踊る?」
「お前やっぱ、少ーしおかしいのと違う?」
「違ーーーーう!!(怒々)小槌の神様の怒りを静める為に、みんなで舞を舞うんだよ!!」
ガササササッ!
カマキリは前足を高く掲げ、羽根を大きく広げた。ウェットティッシュと園は石ころの陰に隠れたが、腰の抜けた園の兄を置いてきぼりにしてしまったのだ…。
「しまった!お兄さんを忘れてた!」
シャアアアア!
彼の脳天めがけて、カマキリが前足を振り下ろそうとしていた。
「キャーッ、お兄ちゃん!」
もう駄目だと皆目を伏せたその時だった。
ダーーーーン!
突然!銃声がした!カマキリはその場で崩れるように倒れた。
ドサァッ
「…」
「怪我はないか?」
3人は恐る恐る顔を上げた。
そこには、ライフルで武装した一人のグラサン男が立っていた。彼は一体、何者なのか?
「あんたはだれ?ありがとう、とにかく助かったよ…」
ウェットティッシュはグラサンの男にお礼を述べた。男はグラサンを僅かに動かしただけで表情は変えなかった。
「名乗るほどのものではない…ちょうどそこを通りかかったらさっきのカマキリに出くわしたんだ」
園の兄は命からがらカマキリから逃げた後だったので、まだ息が荒かった。しかも声は震えている。
「ああ、まだひざが笑っているぜ…あなたのお陰で命拾いしましたよ…こっちは丸腰状態だよ」
園は兄の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「実は俺は、ある組織を追ってここへ来たのだが、どういう訳か、奴らを見失った上、道に迷ってしまった。」
「実は、コロボックルというやつが小槌を振って、みんな小さくなってしまったんだ。」
男はコロボックルと聞き、最初は目を丸くしたが再びサングラスをずらし、背筋を伸ばした。
「このままでは俺もあんた等も危険だ…もしかしたら奴等が襲ってくるかもしれん、お嬢さん、絶対はなれてはいけませんよ」
「はい…」
男は園の手を引いた。そこにいた園の兄は渋い顔をした。
「どうしたの?」
「嫁入り前の女の子がどこの馬の骨と分からない男と手を繋ぐなんて…」
「…少なくともカマキリの前で腰を抜かしてたあんたよりはずっと頼りになると思うけど…」
ウェットティッシュは園の兄をからかうように突っ込んだ。
ボカッ!
ウェットティッシュは背後から殴られた。
タンコブをさすりながら歩くウェットティッシュを先頭に一同が歩いて行くと、何やら楽しげな歌声が――
「森の木陰でドンジャラホイ♪」
「こんがらがってホイ♪こんがらがってホイ♪」
そこには何やら楽しげに歌い踊るコロポックル達の姿が!!今となっては彼らの方が等身大でウェットティッシュ達の方が小人に見える。
「あんの野郎どもぉ〜っ!!オレ達をこんな姿にしておいて、自分達は楽しく踊ってやがるのかぁ〜っ!?」
「グラサンのお兄さん!!あいつらの尻に一発ズドンとお見舞いしてやってくれ!!」
憤慨するウェットティッシュと園の兄だったが、その時辺りを眩い光が覆った――
何と、その光の中には小槌の形をした頭部を持つ神の姿が!!
「あれは誰だ!?」
「どうも小槌の神様みたい…」
「オレの父ちゃんと良い勝負の安直なデザインだなあ…」
「こらっ!よくも乱暴に扱ってくれたな!もう少しで酔うところだったぞ!」
小槌の神様は何べんも頭を横に振った。
「誰じゃ、わしの眠りを妨げたものは?」
「コイツです!」
他のコロボックルはいっせいに水色の服のコロボックルを指差した。
「何だよ、お前ら!少しは仲間を庇おうという配慮がないのか?」
水色の服のコロボックルはふくれっ面をしたが、神様は真っ赤な顔をして激怒していた。
「配慮もへったくれもあるか!元はといえばお前が調子に乗ったのが原因だ…どれ、聞き分けのない奴にはお仕置きが必要なようだな…」
水色の服のコロボックルは神様の言葉に真青になった。
グラサンのマダオ(註・『まるでダメなおっさん(または夫)』の略。ジャンプコミックス「銀魂」(原作・空知英秋)より)ではなくダンディな男はグラサンをかけていたので光を気にせず園の兄ピエールに言われたとおり尻を狙っていた。
「おいピエール、何やらせてるんだ。」
「あ、桂!お前今までどこにいた?!」
「よくわからん。気が付いたら大きな岩…もとい石の上に乗っていたからな、降りるの大変だった。」
「あ。炬ごめん。岸辺さんの辞書…」
「そんなの後で良い。今は元に戻るのが先決だ。」
『炬…やっぱ私は炬が1番大好き!!』
どうでもいいが発砲5秒前!!
「俺は、狙った獲物はにがさないぜ!」
ズドオオオオオオオン!
ついにライフルがコロボックルの尻めがけ、火を噴いた!
バチコーーーーン!!
ライフルの弾がコロポックルの尻をモロに直撃した。
「いてーっ!!いてーっ!!いてええええっっ!!」
水色服は痛さのあまり、おサルのように飛び跳ねた。現在コロポックル達の体の方が巨大なので、大したダメージでは無いのだが…(まるでシッポがちぎれた際の孫☆空のようである:爆笑)。
「おいおい、お前ちょっと尻の皮を鍛え過ぎてないか?」
「今はこちらが小さいとは言え、ライフルの弾をはじくとは…(汗)」
「普段、よっぽどお尻ペンペンされてるのね(笑)」
ライフルの弾が当たって腫上がっている尻をさする水色服を見ながら、ウェットティッシュ達は呆れ顔で言った。小槌の神様は、しょぼくれ顔のコロポックルを諭した。
「分ったな。これに懲りたら、もうお調子に乗ってはならぬぞ」
「はい…(ちぇ、オレはわざとやったんじゃないのに…)」
「そうそう、神様。彼の他にもう1人懲らしめてやって欲しい奴がいるんです」
「ん?それは誰かな?」
園は憤慨の面持ちで説明した。
「犬妖精の炯と言って、そいつがとんでもない性悪野郎なんです。ドスケでしつこくて最低な奴。オマケにこんな事になったのも、元はと言えばあいつが私の大切な物を盗ったからなんです」
「そうとも!オレはただ、その犬野郎をやっつけようとしただけだい!」
水色服のコロポックルも不貞腐れて言った。
「事情は分った。その前に、おぬし達を元の大きさに戻してやろう。怒りの為に勢い余って、おぬし達まで巻き込んで済まぬ事をした。はははは…」
「笑い事で済むかよ…オレは危うくカマキリに食われるところだったんだぞ…」
「お兄ちゃん、言葉に気を付けて。怒らせると元に戻してもらえなくなるかもしれないわよ…」
怒りに震えるピエールを園は小声で制した。
小槌の神様は杖を頭上にかざすと、何やら呪文を唱え始めた。
「うんばらば〜!!う〜んばら、う〜んばら、う〜んばらば〜〜〜〜〜っっ!!」
「(何だか何処かで聞いた事のある呪文だなあ…)」
ボファッ!!
突如、煙が舞い上がりその中から元の大きさに戻ったウェットティッシュ達が現れた。
「やれやれ、やはり元の大きさが一番だな…ああ、グラサンのお兄さんも戻ったんだね…良かった」
「安心するのはまだ早い。あいつから辞書を取り返してからだな」
男はグラサンを直して、銃を手入れしていた。
「そうだな、で、どうやってあの犬コロを懲らしめるつもりなんだい?」
ウェットティッシュは神様に聞いた。