「雨なき日」その3「打ち出の小槌」

犬の妖精の炯(ケイ)現る。

「辞書ー!!なぜ飛んでくー!!」
「やっほー園。」
「げっ…」
目の前に真っ赤髪の少年がいた。園とは違う「耳」が生えていたので一目で妖精だと言う事が分かった。
彼は犬妖精の炯(ケイ)。園に恋心を抱いているがほとんどストーカーになってしまっている悲劇の少年である(汗
「この辞書は頂いたよ。俺のカノジョになってくれたらあの糞忌々しい人間の男(園の恋人の事を炯はこういう)が借りた辞書を返してあげても良いよー。」
「なんかいつもより腹黒いよアンタ…」
「なかなか凄いヤツだねぇ。」
「妖精はいいひとばかりではないんだね。」
「現実は厳しいよママン…」

ウェットティッシュは頭をかきながらのほうを炯のほうを見た。そして、園の方に話しかけた。
「君、付き合っている人がいるの?」
彼の言葉に園は真っ赤になった。彼女の表情を見てなんとなくウェットティッシュは察知した。
「悪いことは言わない。すっぱりあきらめな。しつこい男は嫌われるよ…」
炯は駄々をこねるように手足をジタバタさせた。
「うるさーい!そんなこというとこの辞典を燃やしちゃうぞ!」
炯の右手にはライターが握られていた。

園の恋人・桂(右)と園の兄・ピエール(左)

一方その頃…
「どうした桂?」
「いや、なんとなく園が困っている姿が脳裏をよぎったからなにかと思って…」
「何ィ?!お、オイ貴様!我が妹を家で留守番させているのではないのか?」
「岸辺さんから借りた中国語辞典を返しに行かせた…」
「なんだと!!急ぎ我が妹を救出せねば!待ってろエーーーン!!」
「待てピエール!園がどこにいるのかわかるのか?」
「兄妹と恋人の絆でわかる!!」
「んな無茶を…」

「おい、どうする?早く何とかしないと、あいつ姉ちゃんの本を燃やしちまうぜ」
コロポックル達は忌々しげに炯を睨んでいたが、例の水色服のコロポックルは余裕の表情で懐から何かを取り出した。
「みんな、心配するな。オレにはこれがある!」
「ああっっ!!それは!!」
それは何と、あの一寸法師に出て来た『打ち出の小槌』ではないか!!
水色服のコロポックルは、自分に向けて小槌を振った。
「小槌よ!!オレを大きくしてくれ――」

打ち出の小槌で大きくなったコロボックルだが…

水色服のコロポックルはみるみる大きくなり、容姿も14〜15歳の少年の姿になっていた(どうなってんの!?)。コロポックルは炯に向かって言った。
「ははははは…どうだ!これならお前と対等だぞ!」
すると先程『千里鼻』を出したコロポックルが、彼に文句を付けた。
「何だよー。さっきはオレの事、長老様に言い付けるとか言いながら、お前だって一族の宝物をこっそり持ち出してたんじゃないか」
「オマケに自分ばっか目立ちやがって!!」
他の仲間のコロポックルまで文句を付けだした。
「うる星なあ、この際オレに華を持たせてくれよ…やい、犬野郎のコンコンチキ!!この小槌は物を大きくするだけでなく小さくする事もできるんだ!!小さくされたくなかったら、この姉ちゃんの本を返せ!!」
水色服は再び炯に向かって啖呵を切った。そして園に向き直り、
「それから姉ちゃん。首尾よく本を取り返したら、オレと結婚してくれ」
「それじゃあ、あの犬と変わらんじゃないか!!!」
皆から一斉に顰蹙を買う水色服であった…(汗)。

「行くぞ!!犬野郎!!」
水色服のコロポックルは、炯めがけて小槌を振った。
「へん!!当たらないよー!!」
炯も素早い動きでその場を避けると、代わりに炯の後ろにあったゴミ箱が小さくなった。
「ムムッ!!やるな!!」
コロポックルは負けずに小槌を振りまくった。


小槌の影響で、周りのものがどんどん小さくなる。

ビュン!!ビュン!!
何度振っても炯が素早く避けるので、代わりに別の物…公園の木、ベンチ、電灯、公衆電話、etc、が次々に小さくなっていく…(汗)。
「おい!!こっち向けて振るなよ!!」
「私達まで小さくなるじゃなーい!!」
ウェットティッシュと園は慌てて叫んだが、その時不意に誰かの声が――
「エーーーーン!!」
「誰か泣いてるぞ?」
「違うわ、あれは私の兄さんよ!兄さーん!!危ないから来ちゃダメーー!!」

ビューーーン!!
勢いよく振ったあまり、水色の服のコロボックルの手から小槌が離れてしまった。それは空高く舞い上がった。
「あ、ああ、ああああ!!」
その時、小槌がまぶしく光りだした。

ビュンビュンビュンビュン!!
小槌はなんとひとりでに回りだし、周りに光をばら撒いた。その光を浴びたものは小さくなってしまう。
「どういうことだ!いったい?!」
「小槌に宿っている神様が怒ったんだ!あまりにも乱暴な扱いをしたから…」
「なんだって?!この小槌をとめる方法はないのか?!」
ウェットティッシュは自分の杖で対抗しようとしたが、その杖が小さくされ、そして彼自身も縮んでしまった。
「ウェットティッシュさん!おにいちゃん!みんな!」
園が叫ぶ間に周りのものはどんどんどんどん小さくなっていった…。

虫ぐらいの大きさまで小さくなったウェットティッシュたちに危機が…

皆どんどん虫の様に小さくなっていった。そしてそこへ
「がうがうがう〜」
「ぶぶぶぶぶ」
「ころころころ」
蟷螂や仔犬が公園の中に入ってきた。仔犬は団子虫を転がしながら蟷螂を追っている。じゃれているつもりなのだろうが小さくなったウェットティッシュ達にはただの凶暴で巨大な犬が蟷螂を襲っているようにしか見えない。
そして不意にウェットティッシュ達に矛先を変え、蟷螂は獲物を狙う殺気立った眼に、犬もよりいっそう楽しそうな眼の色をした…。

ウェットティッシュたちは草の陰に隠れていた。コロボックルたちよりもずっと小さくなっていた。あの小槌が暴走してからコロボックルたちの姿を見失ってしまったのだ。
ウェットティッシュは彼等に連絡を取ろうにも取れなかった。唯一の手段が自分の杖だったのに、どこかになくしてしまったのだ。
フンフンフンフン…
仔犬が地面に鼻をこすりつけて臭いをかいでいる。
「あいつ、俺達の臭いに感づいたのか?」
園の兄が仔犬を憎憎しげににらみつけていた。園は兄の傍にしっかりと寄り添っている。
「そういえば、あの犬コロはどこ行った?」
ウェットティッシュは炯がいないことに気がついた。


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