一斉に走り出すケムゾウ一行とヘンリー一行。ヘンリーは結構走るのが遅いのですかさずウェスターニャがケムゾウ達の行くてを阻んだ。
「まずあたいが1番目の守護者だ!まず問題を出すから正解したヤツ1人だけあたいと勝負する。他のヤツはヘンリー様追っかけてよろし。まず第1問!カーネリアンの色は何色だ!」
「え?何?そのカーナビ…ナントカっての?」
ウェスターニャの問いに人志とタマはチンプンカンプンのようだが、以前の騒動でカーネリアンの事を知っているケムゾウは思わずカーネリアンの色を答えそうになった…が!
「(いかん。正解を答えて、このチビと戦う事になったら神様を追う事が出来なくなる。さて、どうしよう……)」
ケムゾウが迷っている傍らで、童馬がすかさず答えた。
「ズバリ!正解は朱色!オレの着ている服より、ちょっと薄めの赤色だ!」
「当たり、ピンポーン!!」
「みんな!このチビはオレに任せて、早く神様を!」
「すまん、芥川。みんな、行こう!!」
「さあ来い!チビ!オレが相手になるぜ!!」
「チビチビ言うでねえ!オメだってチビでねえか!!」
果たして勝負の行方は!?
「ムっ!何奴!?」
異様な気配を感じるキザノビッチ伯爵。
「ここだよ〜♪」
キザノビッチが剣をかざすと、桃の木の枝からラテンとローゼンが一同の頭上目掛けて飛び降りてきた。
ローゼンは人志に攻撃を仕掛けようと迫ってきたが(ふくやまさんが以前描かれたイラストのあのシーンです:照)、そこへケムゾウが割って入った。
「人志さん、この酔っ払いはオレに任せて、アンタは神様を捕まえてくれ!」
「え!?」
「あの神様のスピードを見る限りでは、アンタでも十分追いつける。腕力沙汰はオレ達が引き受けるから、アンタは後でオレが捕まえやすいように神様を押さえていてくれ」
「わかった!」
「行かせませんよ!!」
ヘンリーを追い始めた人志をラテンが捕まえようとしたが、その行く手をタマが遮った。
「待って。お兄さんの相手はボクがするよ」
「ならば私も助太刀を…!!」
キザノビッチも戦闘に加わろうとしたが…。
「ちょっとキザさん、下がってくれないか!?」
「関係無い人が助太刀に入ると、オレ達反則負けになっちまう!」
「そうだ!引っ込んでろ、料理人!!」
可哀想に、キザノビッチは戦闘中の4人に揉みくちゃにされたあげく…。
ぱひょ〜〜〜〜ん!!
ズゴーーーーン!!
酔って勢いの付いたローゼンの馬鹿力に跳ね飛ばされ、地面に頭がめり込んでしまった。いと哀れ…(汗)。
天界の議員達は空達と共に戦いの様子を見ていたが、誰からとも無く不安げな様子で呟き始めた。
「いかんな…双方共にほぼ互角の実力。どうも、あの者達を甘く見過ぎていたようだな」
「このままでは、ヘンリー様が負けてしまうかもしれぬぞ」
「そもそも何故、このような野蛮な試合で空王女の下界での身分を決めてしまわれるのか、ヘンリー様の考えがよく分らぬ」
「力のある空王女が力の無い者達の上に立つ、それのどこがいけないと言うのか…」
議員達の言葉を傍で聞いていた空は、静かにそして毅然と言い放った。
「魔力があるからと言って全てにおいて万全じゃ無い。誰かを攻めてる時に不意打ちを食らったり、疲れたところを襲われりゃ最後だ」
「そ、それはそうですが…」
「オレや鈴達の住んでいる『幸せの国』の人達だって、オレ達みたいな魔力こそ持ってないけど、それなりに外敵や災害から身を守るだけの武器や道具を作り出している。決してこの世界に住む者に引けを取らない存在だという事ぐらい、アンタ達にも分ってた筈だ」
「…」
ザッ、ザッ、ザッ…
人志は懸命にヘンリーの後を追っていた。人志は自他認める筋金入りの『運動オンチ』である。中学校時代、スポーツテストで100m走21秒という不名誉な記録を出したという苦い思い出がある。せめて何かひとつの種目で秀でたものがあれば体育の成績ももう少しましであったろうが、人志は走るのも跳ぶのも何もかもが苦手だった。
だが、今、人志はひとつの大事なもののために走っている。他の皆は人志にヘンリーを託して、ヘンリーの部下達を相手にしようとしているのだ。
(こんな俺のことを皆は信じてている…その期待に応えなければならない!)
人志はただひたすら、ヘンリーの背中を追った。
「アンタ達はこの世界で王族として生まれながら、よその世界で平民として暮らさなきゃならなくなったオレを哀れんで大人社会の上の役職に就けてくれたんだろうが、そんな事されてもオレは嬉しくも何ともない。
人の幸せは他者の上に君臨する事じゃなく、誰とでも仲良く暮らせる事なんだ。
確かにアンタ達から見れば、神である曾ジイさんはこの世界の最高実力者でオレはその曾孫、身分の高い身かもしれないが、だからと言ってオレは自分がこの世で2番目…神の次に偉いと思った事はただの一度も無い――曾ジイさんだって自分をこの世で一番偉いなんて思ってないだろう――。
本当に偉い人というのは、力があるのを良い事に他人を見下ろしていい気になってる奴の事じゃない(そんな奴は最低だ)、他人を思いやり尽くせる人の事なんだ」
空は話を止めるとケムゾウ達の方に視線を向けた。
「見てご覧、あの子達を…。何の得にもならないのに、オレを自由の身にする為にボロボロになって戦ってくれている。オレから見れば、あの子達の方がずっと偉い存在に見えるよ」
空の言葉に動かされたのか、議員達は先程とは違う神妙な面持ちでケムゾウ達を見ていた。
「ぷはぁ〜〜〜〜っっ!!」
「かぁーっ!酒の匂いでオレを酔い潰す気か!?」
「これはボクちゃんの匂いであって武器じゃないもんね♪」
「よーし!そっちがその気なら…(ぷす〜〜〜〜っっ!!)」
「くぁ〜〜〜〜っっ…脳みそゼリー…(クラクラ)」
「これもオレの匂いであって武器じゃない。ははははは!!」
「ひいひい…このお兄さん千手観音でボコボコにしてるのに、なかなか倒れないや」
「はあはあ…ボ、ボクにだってヘンリー様のパシリ…いや側近としてのメンツがあるんだ!」
「くそぉ〜〜〜〜っっ!!もういいかげんに降参しろ!!こんだけぶっ叩きゃ女は泣くもんだぞ!普通…(ぜいぜい)」
「あたいがこの程度で泣くもんか!!これでもシフォンとの死闘で毎日鍛え抜いてるだ!!(ひいはあ)」
ケムゾウとローゼン、タマとラテン、童馬とウェスターニャは体力の限界まで戦い抜いたが、双方共ついにダウンしてしまった。
人志も体力の続く限りヘンリーの後を追い続けたが、とうとうその場にへばってしまい、足で立っているのはヘンリーだけとなった。
「時間切れ!!試合終了!!」
試合の終わりを告げる鈴の声を聞いて、ケムゾウは疲労と絶望の入り混じった表情で呟いた。
「くそぉ〜…オレ達の負けか…。結局、空ちゃんの力になれなかったなあ…」
「いや、この勝負キミ達の勝ちだよ。議員達を見てご覧」
ヘンリーの指す方から、パチパチと拍手の音がした…。
「お疲れ様!皆、よく頑張った!感動しました!」
「私達が間違っていました…空王女のために必死になるあなた達の姿を見ていたら、目が覚めました…」
「…??どうなっちゃってんの?」
タマは議員達の歓声と拍手に目を丸くさせていた。他のものも最初は何がなんだかさっぱり分からず、戸惑いの表情を見せていた。ヘルメスとレントが彼らの元に歩み寄った。
「空王女たちは幸せです…こんな素晴らしい友人がいるんですから…」
レントがしんみりとした表情でつぶやいた。ヘルメスは拍手をしている議員達の方に向きなおり、微笑んだ。
「勝負はこのような結果になったが…聞くまでもないな」
「ははは…お疲れさん、皆、上がってゆっくり休みなさい…今夜は宴ですな…」
「はは、はははは…」
皆はお互いの笑顔を見ながら笑っていた。今まで天界と地上の間にはなかった安らぎがそこにはあった。