「また来ていたのかエヴァグリーン。しかもそこまで酔っていると言うことは貴様、樽30杯は飲んだろう。」
「全くこの神聖なる神にその様な振る舞い無礼であるぞ!」
「おまけに人間もおるではないか!」
ぎゃーぎゃー言う堅物達を無視してヘンリーは彼らを紹介した。
「あそこに座ってる2人組みはさくら組で。あそこはうめ組。あそこはりんご組。あそこは…」
「大体お前達は無礼にも程がある!たかが魔法戦士と天界生物係の分際でヘンリー様のお側におるとは断じて」
「そのへんにしてはどうかの皆の者。その様な振る舞いこそヘンリー様とお客人方に失礼ではないかの?」
そう言ったのはたんぽぽ組の薄紫色の髪の男だった。隣には厳つい褐色の肌の男が議員達を睨みつけていた。ヘンリーは静かにケムゾウ達に2人を紹介した。
「薄紫の髪の方はヘルメス。でっかい方はレントだよ。」
そして小さな声で付け足した。
「数少ない僕のことを理解してくれる天界人だから君達も気軽に声を掛けると良い。」
そうは言ってもたんぽぽ組の2人は議員達の中で1番厳しそうで、近寄り難い雰囲気をもっていた。
「あの、レントさん」
ケムゾウはレントに声をかけた。
「はい、なんでしょうか」
レントはケムゾウのほうを一瞥した。厳つい顔ではあるがやわらかい物腰である。
「率直に聞きますけど、空王女…空ちゃんが地上で重要な任務についていることはどう思いますか?」
レントは周りの議員の罵声からケムゾウたちを守るように前に立っている。ヘルメスは部外者である彼らに対してブーブー言うばかちゃんたちを時折睨みつけている。
「大きな声では言えませんが、私もそれはずっと前から疑問に思っていました。本来は他の子どものように遊びたいお年頃のはずなのに何故、このようなことさせるのかと感じていました。」
「天界の決まりごとは多数決で決まるからな。少数のものの意見はなかなか聞いてもらえないのだよ。」
ヘルメスは噛み砕いて説明した。
「ヘンリー様、何故この神聖なる場所へ人間の子供などを連れて来られたのですか」
「しかも、老人や猫も一緒に…」
天界の議員達は口々にヘンリーに不満を投げ掛けたが、ヘンリーはそれに構わず議員達に説明を始めた。
「みんな、聞いてくれ。彼らは空達が暮らしている『幸せの国』から来たボクの友人達だ。何故、彼らがここに来たかと言うと…」
「神様。後はオレに説明させてよ」
そう言うとケムゾウはヘンリーに代わって説明を始めた。
「皆さん、初めまして。オレ達が天界に来た訳は、王女……空ちゃんの役職を解いてやって欲しいからです」
「なな何となっ!?」
「皆さんにとっては王位に就けなくなった空ちゃんを気遣っての事なんでしょうけど、オレ達の常識では義務教育も終えていない子供が大人の上に君臨している姿は普通じゃ無いんです。ましてや空ちゃんは女の子だ。大人の男が就くような厳つい権力職に就かされてるなんて、空ちゃんだって内心は喜んでない筈だよ」
言い終わるとケムゾウは、ヘンリーの横に並んでいる空と視線を合わせた。空は図星を刺されたかのように目を伏せた。すると今度は、ケムゾウに続いて童馬が話を続けた。
「それにさあ!アンタ達にとって空ちゃんは神様の曾孫で貴いお方もしれないけども、オレ達の世界にそういう考えを持ち込まれると、空ちゃん達のイメージが悪くなるんだよ!まるで義務教育の途中の空ちゃん達7人が、オレ達の世界のどんな大人よりも偉いんだってバカな事言われてるみたいでね!郷に入ったら郷に従って欲しいね!!」
「無礼な!下界の人間、しかも子どもにそういわれる筋合いはない!仮にも空王女はヘンリー様の…」
議員がケムゾウたちに反論しようとしたその時、ヘルメスが静かに答えた。
「お言葉を返すようだが、そなた達は肝心の空王女の意見は訊いているのかな?本人の意思を無視して勝手にそのようなことを決めること自体、疑問だと思うが…」
ヘルメスの言葉に議員の一人はこう返した。
「…空王女、それはまことか?」
空はその問いに対して、議員達の方をまっすぐ見つめて訴えた。
「ケムゾウの言うとおりだ…今まで我慢してきたけれど、もう俺達をを特別扱いすることはやめて欲しい。人間界に居ながら同じ年ぐらいの子ども達と同じように出来ないなんて、もう、耐えられない!」
「皆、空をわがままだと思うかもしれないが僕もこの意見には賛成だ。そのことでそこにいる男の子達とゲームをすることになった。僕がそのゲームで負けたら空の将来や普段の生活での特権を消す。それだけじゃない、『多数決』でとても大切な事を決めるのはやめにしよう。僕が勝ったら何も変えずにこのままだ。」
「納得できません!大体なぜヘンリー様がこのような者達と賭けをするのですか?!」
「君はりんご組組長のサイ君だったね。悪いけどもう決めたから。」
ヘンリーが左手をサイと呼ばれた若者の目の前にかざした。するとヘンリーの手から赤い光が出た。サイは金縛りにあったかの様に動かなくなった。
「他にも異議のある者はいるか?あるのだったら彼みたいに少なくとも2,3年はあのままだけど。」
冷ややかに、そして凍てついた微笑でヘンリーは言った。
「そうだ、ゲームが終わったらついでだが、このはってむさんを生き返らせて欲しい。」
「ついでとはどういう意味じゃ!」
はってむはヘンリーに抗議したが、ケムゾウたちは緊張した面持ちで固まって動けなくなったサイを凝視していた。
「さあ、ゲームの準備は出来ている。会場はこちらで用意したから、ついてきて欲しい。」
ヘンリーの後にケムゾウたちは続いた。今まで空の役職を解くことに反対していた議員達も、青ざめた表情で後に続いた…。
目の前に豪華な装飾が施された扉があった。それは1つの芸術作品と見間違うほどのものだった。
「この場所は特別な時にしか使わないから僕にしか開けられない。今、開けるからね」
ヘンリーは扉の錠前にあたる部分に手をかざした。すると、ガチャンと鍵が開く音がした。
ギギギギ〜〜〜〜〜〜ッ!!
ゲームの会場の扉はゆっくりと開き、ゲームのステージとなる場所がいま公開されようとしていた。