人志とタマはケムゾウから話を聞くことにした。
「僕達は神様と『鬼ごっこ』の勝負をすることになったんです。僕達のチームは鬼の役で、神様が逃げる役です。これはある女の子の為の大事な勝負なんです。人志さん、タマ君、どうか力を貸してください。」
「ねぇ、神様ってどんなひとなの?」
タマがもっともな疑問を投げかけた。人志とタマは神様のことはまったく知らない…いや、一度会っているのだ。(作品集・1「異世界の不思議な友達」友斗さん原作参照)ただ、神様があの『彼』だとはまだ気が付いていなかった。
一方、こちらは天界。神ヘンリーの住むエデン城の後宮。
「ヘンリー様、一体どちらにおでかけされたのですか?」
「ああ、ちょっと挑戦状を渡しにね。それにはラテン。君にも出てもらうから宜しく。ついでに明日だよ。」
「は?」
「よう、ヘンリーちゃん。俺もでさしてよ。」
「うん。そのつもりさ。あとウェスターニャにもでてもらうからね」
「え?あたいっすか?あたいヘンリー様の御役にたてっかなぁ〜」
「皆。とりあえず好きなように闘ってくれて構わない。作戦はまかせる。で、ルールはかくかくしかじか…」
「わかりました。ヘンリー様。すべて私におまか」
「わーなんだか楽しそうだなーこんなにわくわくするの百年ぶり!」
「あたいもがんばるけん!負けへんよー」
ケムゾウ達がゲームのルールについて話し合っていると、そこへ空と鈴が駆け付けて来た。
「空ちゃん!?どうしてここが!?」
「鈴の占蓮玉…お守りの玉にアンタ達の話し合う姿が映ったらしいんだ。アンタ達、神…オレの曾ジイさんと遣り合う気かい?」
ヤバイ、知られちまった…。ケムゾウはその場に手を付いて空に謝った。
「空ちゃん、ゴメン!!余計な事して…」
「ケムゾウ、ゴメン!!」
「え…???」
よく見ると、空もケムゾウに手を付いて謝っている。
「オレは今まで職に就いてる自分の事を大きく考えて無かった。警視庁最高の地位に据え置かれていると言っても結局は形だけ。実際この世界で権限がある訳じゃ無し、お遊びごっこも良いとこだ。そんな事してるより、できれば普通の女の子として自由に遊びたい気持ちはあるけど、オレの事を思ってやってくれている曾ジイさんの気持ちを無駄にできないと思って、本心を言い出せないまま今日まできたんだ。でも、この間のアンタの言葉を聞いた時、その役職に就いてるオレの姿が普通の目から見て、どんなに異様で壮絶に見えるか初めて気が付いたんだ」
「…」
「オレ、今度曾ジイさんに会ったら相談するつもりでいた。だからケムゾウ、オレの曾ジイさんと勝負するなんて無茶はやめておくれ。ヘタして命を落とす事にでもなったら……」
「大丈夫、心配無いよ、空ちゃん。勝負ったって真剣勝負じゃ無い。神様とちょいとゲームするだけの事さ」
「それに、これはもうオタクらだけの問題じゃ無い。年端も行かないアンタ達が異様な役職に就けられてるのは、多くは天界の議員とかいう奴らの意見と言う事が分った。相当な分からず屋連中みたいだから、オレ達は現世に住む者の威信に賭けても神様に勝って、議員の連中に己の馬鹿さ加減を分らせてやるんだ」
明日への勝負に目を輝かせているケムゾウと童馬を見ながら、空と鈴が口を開いた。
「それなら明日、オレ達も参席しても良いかな?」
「立会人と審判を兼ねて」
「良いだろう。それじゃあ、明日朝7時この場所でね」
「よう、お取り込み中悪いんだけどさ、俺達はどうすればいいわけ?」
「あのさぁ、何がなんだか訳わかんないんだけど」
人志とタマは膨れっ面をしていた。向こうで話が進んでいるのでどう話しに入っていけばいいのか分からなかったからだ。
「あっ!人志さん達のことを忘れていた!」
空はケムゾウの言葉にようやく人志たちの存在に気が付いた。
「ああ、空ちゃんたちは初めてだったな。人志さんとタマ君だよ。今回、俺達と鬼ごっこに一緒に参加することになったんだ。」
「初めまして、空ちゃん。」
「人志さん、タマさん、初めまして。天野空です。オレたちのために大変なことに巻き込んでしまい、申し訳ありません。」
「いや、人志くんに言われてきたからわかんないけど、なんだか楽しそうだったから…」
タマは未だ事の重大さを理解できていないようだった。人志は空の顔をじっと見ていた。
「人志さん、どうしたの?何かオレの顔についてる?」
「いや、誰かに似ているなあって思ったから…」
「これ…」
鈴は小さな紫の宝玉の付いたペンダントを童馬に渡した。
「何?」
「お守り。明日それを付けていれば、きっとあなたを守ってくれるわ」
「(鬼ごっこするだけなのにオーバーだなあ…)」
そう思いつつも、童馬は鈴のペンダントを首に掛けた。