その頃、天の上では天野空の曽祖父であるヘンリーがくしゃみをしていた。
「ぶえっくしょい!」
「ヘンリー様、風邪ですか?」
ヘンリーの所に遊びに来ていた神様(右奥)が尋ねた。
「いや、誰かが私のうわさをしているのでしょう。」
天界でヘンリーがくしゃみをかましている頃、チャイルドXに搭乗した4人は巨大まさりんを従えてすすきヶ原の町へ向かっていた。
「このロボットの中って暖房が効いてるね。何だか眠〜くなちゃった。ムニャムニャ…」
「お、おい、寄り掛かるなよ!操縦できねえだろ!!」
再び幸せな眠りに付こうとする心太に童馬が吠えている傍ら、ケムゾウは空に話し掛けていた。
「空ちゃん」
「何だい?」
「キミの今の役職の事だけど」
「警視総監の事?」
「うん。あれ、何とかならないかな?」
「?」
「確かにキミ達はあちらの世界では実力者の子供で、特にキミは神様の曾孫、言わばお姫様だ。大切な身なのはよく解る。でも、この世界で警護を受ける理由付けに、キミみたいな年頃の女の子が国家権力の頂点に据え置かれるっていうのはどうかな?某国の姫君として護られてるならともかく、多くの大人の部下を従えて警視庁の最高責任者として君臨しているキミの姿を思うと、オレには厳つくて不似合いに感じる。キミの恋人も喜ばないと思うよ」
「…」
「オレはキミにはこの世界で普通の女の子として暮らして欲しいんだ。護ってもらう身としては沖田さん(空の部下。事実上の警視総監)にお返ししなきゃならないのも尤もだけど、それなら彼らの上司としてじゃ無く、お手伝いさんみたいな形で…ダメかな?」
ケムマキの言葉に、空は苦しそうに顔をゆがめた。そして、吐き捨てるように言葉を投げつけた。
「何よ!!勝手なことばかり言って!私がどうにかできることならとっくにしているわよ…!」
「…」
「何にも…何もしらないくせに!男の癖におせっかいなんだよ!」
「!!」
空の険のある言い草にケムゾウはまたムカついた。
「何だよ!!オレは心配して言ってるんだぞ!!」
「それが余計なお世話なんだよ!!放っといてくれ!!バカ!!」
「バカとは何だ!!バカと言う方がバカだ!!」
「バカバカバカ…」
「バカバカバカバカ…」
「お前ら、これで2回目だぞ!!」
童馬の一喝で、2人はケンカをやめた。
「腐腐腐…キミ達さっきもケンカしてたみたいだけど、仲が良い程ケンカするもんだね」
「うる星!!」
心太の突っ込みに、ケムゾウは赤くなって怒鳴った。
「…ケムゾウ、ゴメン。またムキになっちゃって…気持ちは嬉しいけど、これはオレ自身の問題。今はダメでも、きっと何とかしてみせるよ」
「…信じてるよ、空ちゃん。手に負えない時はオレ達も力になるから」
「ありがとう」
「お二人さん、良いムードをぶち壊して悪いが、いよいよ目的地だぜ」
童馬の言葉に一同がスクリーンを見ると、そこには空き地の土管に座って自慢たらしげに朱色の宝石のペンダントを見せびらかしている1人の少年の姿が……。
そのころの天界。
「ところでヘンリー様。どうして空王女たちにあのような職を与えたのですか?特に空王女なんか…」
「神様、僕は昔4つ大切なものを亡くした。1つはアベルと言う仲間、2つ目はルナと婿殿、3つ目は空の母親イリス、そして…僕に仕えてくれた大勢の陽気な兵士達。」
ヘンリーは寂しそうに微笑んだ。
「僕が昔治めていた国はね大勢の魔物に襲われて1回滅んだ事があるんだ。僕とカシス以外は死んだ。僕の親族ももちろんね。そしてある日、1つだけ願いを叶えてあげようと言われた。しかし親族を蘇生すれば国民は蘇生できないと言われて僕は困った。僕は国民を蘇生してもらった。空には王者になってもらいたかった。できれば人間の女王として…だからこそ僕は例え王位が絶対に回ってこない空にも王者の資格がもてるぐらいの力を手に入れてもらいたいんだ。 」
「Attention,please...」
ここは××空港。空の恋人・カミユがいた。
カミユは空港の中でTVを見ていた。
「ニュースです。今日午後×時頃、○▽町で空を飛んでいたカラスが次々と落ちる事件が起きました。落ちたカラスはどれも気を失った状態で、傷ひとつ見当たらないと言うことで、警察ではさらに詳しく調べております…」
「○▽町は空ちゃんの住んでいるところでないか。大丈夫だろうか…」
カミユは心配そうにTVを見ていた。
「ところでさ、その子からカーディガン返してもらうんだろ?その子がもし返してくれなかったらどうするんだ?」
「10万ボルトおみまいする」
「…」
「ウソ。この小さな袋にはあっちの世界で見つけたり買ったりした珍しい薬草とか光る石とか入ってるんだ。これと交換してくれると思う。」
その頃、スネ夫は空のカーネリアンのペンダントをみんなに見せびらかしていた。
「どうだい、綺麗だろう?パパが海外に出張したときのお土産だぞ。」
スネ夫は次から次へとペンダントの自慢を述べていた。離れたところからその様子を見ている空たちが感心するほどだった。よくもまあ次々とあることないことが出てくるもんだ…。
「スネ夫、もっとよく見たいから貸してくれよ」
ジャイアンはペンダントをよこせと言わんばかりにスネ夫の前に手を出した。
「だめだよ、これ、高いんだよ!」
「なんだと!」
ジャイアンはスネ夫の手からむしりとるようにペンダントを奪い取った。