「勝利をつかめ、いや違った勝利の石を取り戻せ!」その5「めぐりめぐる宝石」

カラスが落としたカーネリアンを拾うスネ夫

カラスが口の中の物を落とした理由はこうである。

その時カラスは1人の少年の上空を飛んでいた。その少年は店のショーウインドウに映った自分の顔を眺めながらウットリしていた。
「いつ見ても、ああ…いつまで見ても飽きないなあ、ボクの顔は…。美しいという言葉は、ボクの為にあるんだなあ…」
カラスは思わず吐き気を覚え、口に入れたペンダントを吐き出してしまったのである。

ポトッ!!
「ん?何だ?」
彼、骨川スネ夫(10歳)は近くに落ちてきた光る物を拾い上げて見た。
「これは…!!宝石じゃないか!!何でこんな物が落ちてきたんだ?」
スネ夫が空を見ると、1羽のカラスが忌々しそうに「アホー!」と鳴いていた。
「ははあ、あのカラスが誰かの宝石を取ったんだな。ようし、みんなに見せびらかして金回りが良いのを自慢してやろう。交番に届けるのは、それから後で良いや」

ケムゾウ達は手分けしてカラスの口の中を調べたが、空のカーネリアンは見つからなかった。
「どうも、このカラスの中にはいないようだな」
「それじゃあ最後の手段!心太の助けを借りよう!」
「げげっっ!!心太!?」
空の提案にケムゾウと童馬は露骨に嫌な顔をした。黒田心太は空の仲間で読心術の力を持っており、またFBIの世界最年少幹部でもある(勿論、この事は世間には秘密である)。
「カラスの念波を探れるかどうか分らないけど、とにかく頼んでみよう!」
ケムゾウは頭を抱えた。
(また、あいつの力に頼らなきゃならんのか…)


コタツの中で心地よい眠りにつこうとしている心太。

一方そのころの心太は家にいた。
「嗚呼、なんて暖かいんだろう。僕の恋人は君だけさ…」
心太はお小遣いで買ったちょっと高いこたつを手に入れ、一人ぬくぬくと暖まっていた。このこたつは2,3人しか入れない狭い物だったが心太の独占欲にぴったりあっていた品であった。
「眠いなぁ…むにゃむにゃ…ぐぅ…」


だがその時、心太の幸せな安眠を打ち破るかのように電話のベルが鳴り響いた。
「むにゃ…?何ら…?」
心太が面倒臭そうに受話器を取ると、空の声が聞こえてきた。
「心太?空だけど、ちょっと頼みたい事があるんだ」
空は心太に今までの経緯を話した。
「解った。ちょっと待ってて」
心太は町中に精神を集中した。

「いたよ。宝石を見つけて喜んでるカラスが」
「今、どの辺を飛んでる?」
「町中を歩いてるよ。何たって飛べないカラスだから」
「え???」
「はははは。ボクが言ってるのは、人間の男の子の事だよ。彼はカラスが口から落とした宝石を自分のだと言って友達に見せびらかす気だよ」

「で、そいつは今どこに?」
「すすきヶ原の方だね」
「参ったなあ、オレその辺の地理に疎いから…ケムゾウ。アンタ達分かる?」
「オレも、あの辺は滅多に行った事無いからなあ」
「オレも」
「心太。悪いけど案内してくれないか?」
「えー?今から?」

「お願いだよ、急ぐんだ。後でお礼に切干大根たくさん作ってやるからさあ」
「空の切干大根か…あんまり期待できないなあ
「何だって?」
「あ、いやいや、こっちの事」
「それじゃあ、今からそっちに行くから待っててくれ」
空はそこまで言うと電話を切った。

「あーあ、せっかく幸せな眠りにつけると思ってたのに…神様のバカヤロー!!」
その時心太は苛立っていたので、天の上からくしゃみの声がした事に気付かなかった。


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