「うう、なんだここは…?」
人志はあたりを見回した。うっすら霧の漂う世界。
「ここはひょうたんの中?酒臭いな。くらくらするぜ。」
足元を見ると透明な液体が溜まっていた。それをレスが舐めてみた。
「むむ、これはまぎれもなく酒だ。しかも、上等の」
「僕も飲む!」
「ばかたれ!呑気に酒飲んでいる場合か!」
緊張感がないタマをサンダーが叱り付けた。
「ここに閉じ込められたものはひょうたんの胃液によってとかされて、溶かされたものは酒になるんだ…」
「嫌じゃ!わしは酒は好きだが、酒になるのはごめんだ!」
ナイトメアの言葉に、はってむはパニックになって頭を抱えながら走り回っていた。
「焦るな!ここを出る方法を考えるんだ!」
ケインの鋭い一声が飛んだ。
「そうだ!この酒を凍らせてしまおう。そうすればぬれないしな。皆1、2の3でジャンプしてくれ。」
ケインが右手をさすりながら言った。
皆は慎重に、そして心を落ち着かせて深呼吸した。
「1!2の!3!」
ぱきぃぃぃん
ビキビキビキ…
酒の水溜りには氷のまくが一瞬のうちに張ったのかのように見えた。だが、それはすぐに脆く割れてしまった。
バシャーン!
「ああ!もう!水溜りに落っこちたじゃないか」
はってむがブーブー文句を言ってるとケインが睨み付けた。
「酒は凍りにくいんだよ…凍る温度が水よりずっと低いんだ」
ヘンリーが説明した。(酒が凍りにくいことの説明はここに詳しく書いてあります)
「ヘンリー、お前の剣でなんとかならないか?」
「やってみるよ」
ヘンリーは自分の剣を発動した。
グオオオオン…
「だめだ、この酒は思ったより手ごわい、びくともしない」
酒は足元で不気味な泡を立てていた。
ボコボコボコ
「万事休すか…?」
「このまま俺達は酒になっちまうのかよ!」
「落ち着け!」
「誰だ!そこにいるのは!」
ひょうたんの腹の中の向こうから怒鳴り声が聞こえた。
「!」
声の主がヘンリーたちのいる場所に向かってきた。
バシャ、バシャ…
皆は固唾を呑んで見守った。
「お、親父…!」
「え?」
「こ、この人が?!ケムケムのお父さん?」
ケムケムの前にはケムケムとは似ても似つかぬ美青年の背の高い妖精が立っていった。ケムケムの父は息子の姿を見て驚いた表情をしていたが、久しぶりの再会に安堵の表情を見せた。
「ケムケム…よくここが分かったな…」
「親父、無事だったんだ…皆は?」
「捕まっている皆はあそこにいる、我々の力で何とか酒になるのを食い止めているが、もう、限界だ…」
ケムケムの父親の案内でひょうたんの腹の中央に来た一同が見たものは、手を繋ぎ輪になって、酒の表面擦れ擦れで浮き上がっている大勢の妖精達の姿だった。皆、苦しそうに精気を放出しているが、もう限界が近い事は目に見えて分った。
「それよりケムケム、この人達は?」
「あ…実は、オレが悪戯してクロッカルに捕まった時、オレが無意識に呼んじゃったみたいなんだ…」
ケムケムがつぶやき加減で言うと、はってむが憤慨した様子で、怒鳴り散らした。
「そうじゃ!この悪戯小僧が悪さをしなければ、今頃ワシらは平穏無事に暮らせたんじゃ!この始末、どうしてくれる!」
「ケムケム、そうなのか!?」
「うん、ゴメン…」
ボカッッ!!
父親の拳がケムケムの横面に飛んだ。その勢いで、ケムケムは酒の中にもろに倒れ込んだ。
「何すんだよ!酔っ払うじゃねえか!」
酒に咽びながら言うケムケムに、父親は一喝した。
「馬鹿!!日頃あれ程言ってるだろう!!他所様に迷惑を掛けるような悪戯はよせと!!お前は今、何の関係も無いこの人達の命まで危険に晒しているんだぞ!!」
父親の言葉を聞いて、ケムケムはまた涙ぐんでいる。今の場合、涙か酒のしずくか、よく分らないが…。
「親父さん、まあ落ち着いて。今はそんな事言ってる場合じゃ無いよ。何とか、この化け物の腹から脱出する事を考えなきゃ…」
見るに見かねた人志が仲裁に入ると、その後をヘンリーが続けた。
「お父さん。ボクに良い方法があるんです。ボクが魔法で皆さんの気を高めますから、皆さんはその気を一気に放出して下さい」
「そうか、内側からひょうたんを破壊するんだね?」
「そうだよ。みんなも力を貸してくれるかい?」
「良いとも!」
ケムケムの父親を始めとする妖精達に、ヘンリー、人志、ケムケム、マサボー、5人の猫型宇宙人、ケシゴムくん、はってむも加わって手を繋ぎ、前より大きな輪になった。
「何でワシまで…」
「アンタの気でも無いよりマシだろ?」
ぼやくはってむに、サンダーがぶっきら棒に言った。