「大変です。このままでは城に捕らえられている妖精たちがいなくなってしまいます。」
マサボーは切羽詰った表情で話し始めた。
「どういう意味だ?」
人志はマサボーに質問した。
「ナイトメアの部下にひょうたんと言う奴がいます。そのひょうたんは自分の体の中に妖精を閉じ込め、妖精をお酒に変えてしまうのです。」
「なんだって!?」
話を聞いていた一同は驚きの表情を隠せなかった。
「マサボー…お前、マサボーじゃないか!」
ヘンリーとケインに加勢しようと、蛇王に剣を構えていたケムケムが、マサボーに気付いて駆け寄って来た。
「キミ達は、知り合いか?」
人志の問いにケムケムが頷いた。
「オレとマサボーは友達同士なんだ。マサボー、お前もナイトメアに捕まってたのか」
「ケムケム!!キミを探してたんだよ!!実はキミのお父さんから預かって来た物があるんだ」
「何だい?」
マサボーが懐から取り出したのは、一つの光る玉だった。
「それは『浄化球』!!」
「ケムケム、一体この玉は、どんな力を持ってるんだい?」
「浄化球は悪に染まった妖精の心を清める作用を持ってるんだ」
「そうか、ナイトメアは元々は善良な妖精。心に取り入れた悪の心さえ取り除けば、元の優しい妖精に戻るかもしれないな」
「ケムケムのお父さんは、不意を打たれて浄化球を使う間も無く捕らえられてしまいました。そこでボクが浄化球を託ってここまで逃げて来たという訳です」
「よし!早速使ってみよう!」
その頃、蛇王はヘンリーに襲い掛かろうとしていた。
「お前は…神か?こんなところで神に会えるとは、ありがたい。今こそお前の血と肉を取り入れて、神の力を得てやる」
蛇王の牙がヘンリーに迫って来た、その時だった。
「浄化球よ、悪に染まりしナイトメアの心を清めたまえ!!」
ケムケムの言葉に反応してた浄化球は、眩いばかりの光を辺り一面に発した。
「ぐおおおおおおおっ!!」
「ま、眩しい…!!」
ナイトメアと、彼の生み出した分身である蛇王は同時に苦しみ出した。
光が消えると、その場からナイトメアと蛇王の姿は消え失せていた。その代わりに、そこには一匹の大人しそうなバクがいた。
「何じゃ、あのカバは?」
「あれはバクですよ、はってむさん…」
はってむの間違いをフレイヤが正した。
「…」
元の姿に戻ったナイトメアは泣きそうな顔でヘンリーたちの方を向いていた。
「どうしたんだい、怖がらなくてもいいんだよ」
ヘンリーが優しく声を掛けると、ナイトメアは泣き出した。
「僕は夢の中でしか皆と遊ぶことが出来なかった…だから、皆が起きている間はずっとひとりだった…あんまり悲しくて夢をたらふく食べたら、恐ろしい姿になってしまった…」
「寂しかったんだね、でも、君はもう一人じゃないよ、ほら、ここにいるじゃないか」
ヘンリーが周りの皆の方に手を向けた。人志たちが微笑んでいた。
「皆を助けに行くぞ!」
「おう!」
皆はいっせいに拳を上げた。
「かっこよかったぜ、お前」
人志がケムケムに向かって言った。
「喜ぶのはまだ早いよ、皆を助けてからだ」
「そうだな」
ナイトメアがみんなの先頭にたって走り出した。
「皆さん、城はあそこです!」
皆が『悪夢の城』に向かっているその時、ひょうたんは大いびきをかいて寝ていた。
ZZZ…
ドカーーーーン!!
突如起こった爆発に、ひょうたんはびっくりして飛び起きた。
「何だ何だ!?何事だ!?」
ひょうたんが爆発の起きた方を見ると、壁に大きな穴が開いていた。そしてその穴を通って、緑の髪の少年と金髪の少年、肩に小さなケシゴムを乗せた老人と2人の妖精少年、更に5人の猫型宇宙人が次々と姿を現した。
「お前達は何者だ!?」
「こりゃ!ヒョウタンツギ!!悪い事はやめて、早くこの子達の親を返してやれい!!」
突然の侵入者に驚愕しているひょうたんに、はってむが威勢良く啖呵を切った。
「えーい!何を抜かす!!……それより、ナイトメア様達はどうされた?」
「ナイトメアなら、ほら。ここにいるよ」
ヘンリーが指すと、壁の穴の中から1匹のバクが姿を現した。
「う、うそだ!ナイトメア様は、もっと強大な力を持ったお方……そんな気の弱そうなウシである筈が無い!!」
「…バクだよ」
風船猫・タマがぼそりと言うと、他のものも白い目で見ていた。
「お願いだ、君の体に閉じ込めている妖精たちを出してくれないか!これは僕の命令だ!」
ナイトメアはひょうたんにそう言ったが、彼の言ったことが信じらないといわんばかりに真っ赤になった。
「どいつもこいつも俺をコケにしおって!ええーい、皆、吸い込んでやる!!」
ゴオオオオオ!
ひょうたんが頭のふたを取ると頭の穴からものすごい空気が出て来て、彼らを吸い込もうとしていた。
「うわああああ!!」
ヘンリーたちはなす術もなく、ひょうたんの中に吸い込まれた。