「異世界の不思議な友達」その9「悪夢の城」

「それにしてもなんかやなカンジだねこの森。」
「皆念のためにいつでも闘える様にしといてね。」
「うんわかったよケシゴム君。」
(ところでケシゴム君はどんな武器があるんだろう?)


幽閉された妖精たち。

一方、ここは、ナイトメアがいる『悪夢の城』。ここには多くの妖精たちが幽閉されていた。
「うわーっ!助けてくれーっ!」

「うるさいぞぉ。」
とてつもなく低い声。ナイトメアの声だ。
「おまえらなんぞすぐに喰ってやるつもりだったが私も蛇王(じゃおう)を作ったことでかなり衰弱しているから喰う気力がないだけだ…静かにしていろ…」

グオオオオ〜〜
ナイトメアの大きな鼾(いびき)が辺りに響いている。
「ひいいっ、こ、鼓膜が破れそうだ!ここに閉じ込められてから、毎晩聞かされっぱなしだ…もう、うんざりだ!」
2本角の妖精が泣きそうな声をあげると、傍に居た背の高い妖精が静かな声で諭した。
「時を待つのだ、希望を捨ててはいかん」


ひょうたんのお化け?

「だれじゃ!?ぎゃーぎゃーわめいて、わしの眠りをじゃまするやつは?」
妖精たちの前に一つ目のひょうたんのような魔物が現れた。ひょうたんは不機嫌そうな声を上げた。
「紫のお前かああ!わしの腹の中に閉じ込めてくれるわ!」
「や、やめろおおおお!」
2本角の妖精はひょうたんの言葉に怯えた。

ひょうたんが頭の栓を取ると、2本角の妖精はあっというまに吸い込まれた。
ゴオオオオッ、スポッ
「…」
他の妖精たちは沈黙してしまった。


ひょうたんの腹の中?

2本角の妖精は煮えたぎる熱湯の中に居た。
「うわー、閉じ込められた!でも、何故か気持ちいい…」
「わしの腹は温泉になっておる、お前を温泉卵ならぬ、温泉妖精にして、蛇王様の生贄にしてくれるわ!」
「生贄は勘弁してくれえ!」

「うわあああ!」
2本角の妖精の悲鳴がひょうたんの腹から聞こえてきた。だが、その声も次第に聞こえなくなった。
「なんて惨いことを…」
「ナイトメア様達を怒らせたくなかったら、大人しくしているんだな…ふははははは」
ひょうたんは嘲笑しながら、その場を去っていった。


暗闇の中には…

「キシャァァァ…」
低いうなり声がした。うなり声は闇の中で木霊(こだま)した。
「あぁ、血が欲しい…肉が欲しいぃ!」
尾を鞭のように鳴らした。暗闇のなか、蛇王は腹を減らしていた。
「心配するな。じきにどんな生き物よりも珍しく、美味い肉が手に入る。」
「ナイトメア様、やはり妖精を一匹蛇王様に…」
「大丈夫だ。それに腹を空かしてくれないと困る。」
「?」

「蛇王は我等の鍵。そして奴等もこの蛇王の鍵。鍵を開けるにはどうする?」
「鍵穴にちゃんとはまるか確かめます。もしはまらなかったらどこがいけないのか調べます。」
「ククク…そうだ。」


魔の森の人志と消しゴムくん。

ヘンリーたちは魔の森を歩いていた。だが、行けども行けども棘ばかりである。棘は減っていくどころかだんだん大きくなり密生するようになってきたようだ。皆はこの森の重苦しい雰囲気に押されているのか、無言だった。

「ナイトメアは何故、妖精たちを捕らえているんだ…?」
独り言のように人志はつぶやいた。人志の一言にケムケムが続いた。
「妖精界は、自然と妖精が密接な関係にあるんだ。お互いに必要とし助け合い、この世界は成り立ってきた…だが、ナイトメアが妖精たちを捕まえはじめてからこの世界はおかしくなり始めたんだ…」
「…」

「妖精界の森は妖精のパワーが必要なんだ…ナイトメアはきっと、妖精のパワーが届かない場所に妖精を閉じ込めているに違いない。このままパワーが届かなかったら、ここの森は死んでしまう!」
ケムケムは正面を向いたまま、声を震わせながら歩いていた。
「それだけじゃない…妖精界から妖精がいなくなったら、ヘンリーを元の世界に戻すことが出来なくなっちゃうよ…」
消しゴムくんは人志の髪の中に隠れながら、泣きたいのをこらえていた。

「心配しないで…僕達がなんとかするから…」
「おう、そうだ、ヘンリー、俺たちはそれを阻止するためにここにいるんだからな!」
ヘンリーと人志は皆を元気付けようと励ました。だが、本当は挫けそうな自分に言い聞かせているのかもしれない。

暗黒の空には…

「おぬしら、油断するでない、上を見ろ!」
はってむは厳しい表情になり、空を指差した。
「なんだ!?あれは?」
「ナイトメアだ!」
そこにはほうきに乗った無数のナイトメア達がいた。

グオオオオオ…
地鳴りがするぐらいのいびき…ナイトメアの声が空に広がっていた。
「グフォフォフォ…ようこそ、魔の森へ…さあ、歓迎のあいさつをしようか」
どす黒い空の上でナイトメアたちは不気味な声で笑っていた。

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