「おい、どういうことだ?まさか、あんたらがケムケムの父親を…」
人志はクロッカルたちに話を振った。
「滅相もございません!ケムケムの父親は私達よりもずっと強力な魔力の持ち主です!とても勝てるはずはありません!」
クロッカルの部下の一人が震えながら話し始めた。
「今、妖精界で実力者の妖精が相次いで失踪しているのです」
「詳しく話してくれないか!」
「妖精たちを捕らえているのは、ナイトメアという魔物です」
「ナイトメア?」
「ナイトメアは元はバクの妖精でした。」
「バクってあの悪い夢を食べる、バク?」
「そうです、彼はもともと悪い夢を食べてくれる心優しい妖精でした。ところが悪い夢を食べ過ぎた奴は心を侵され、次第に悪さをするようになったのです…」
「とにかく、そのナイトメアとかいう化け物を倒さん事にはケムケムの親父さんを救えん訳だな。一体そいつはどこに住んでいるんだ?」
人志の問に、クロッカルの部下は答えた。
「妖精界にある『魔の森』の奥に建つ古城の中に住んでおります。妖精界へ通じる道は、この洞窟の奥にあるのですが……」
「そうか、洞窟の中は水浸しになっちまったんだ」
「ボクのせいだ!うわーーーーーん!!」
「わわっっ!!消しゴムくん、泣かんでもええ!!」
泣き出す消しゴムくんを、はってむは慌てて止めた。
「よし。『氷の剣』でまず水を凍らせてその後に『フレイムスネーク』で氷を溶かし、更に蒸発させよう。うまくいくかわかんないけど。」
ヘンリーは再び剣に力をこめた。
ゴゴゴ…
5分後、洞窟の中に入れるようになった。
「人志さん、ケシゴム君、すごい魔法使いのおじさん。ここは僕一人で行くよ。この先はきっと危険が…罠がたくさん牙をむくだろうから。」
微笑みながらヘンリーはそういった。
「ヘンリー!キミを元の世界に戻すという約束で、ここまで来たんだからね。最後まで付き合うよ」
「ボク達は友達じゃないか!」
人志とケシゴムくんに続いて、ケムケムも言った。
「そうだよ!オレもついて行くぜ!オレの親父を救う為に、アンタ1人を危険な目に遭わせられるもんか!」
このケムケム、悪戯者ながら結構勇敢である。
「ありがとう、みんな…」
「モチロン、はってむさんもついて来るよな?」
「ん!?ワ、ワシは、ちょっと用事が…」
「さすが、はってむさん!話が解かる!さあ、行こう!」
「あ、オイオイ…!!」
ヘンリー、人志、ケムケムの後に続いて、はってむがケシゴムくんに引っ張られて洞窟の中に入って行った。
後ろでは、クロッカル達が声援を送っていた。闇の使者とは言っているが、宝玉に手を出しさえしなければ案外良い人達のようである。
洞窟の中を歩いている最中、ヘンリーは皆にペコっとお辞儀した。その顔は真っ赤だ。
「皆どうも有り難う。僕嬉しいよ。グスッ」
「泣くなよヘンリー。」
「だっれ、だっれぶぉく1人って寂しいし怖いしつまずくし頭と顔ぶつけるし…」
(そ、そんなことかぁーーー!!!)
「何か、戦意喪失するなあ……」
「強いのか弱いのか解からん人だぜ……」
人志とケムケムがジト目でヘンリーを見ながら言った。
暫く行くと、洞窟の壁にポッカリ開いた光る穴があった。
「これが妖精界への入り口だよ。アンタ達は初めてだから、オレが案内する」
ケムケムはそう言うと、光る穴の中に入って行った。その後を一同は続いた。
妖精界は、それは美しい所であった。色取り取りの花が咲き乱れ、空が七色に輝いていた。
人志達がその光景に見惚れながら歩いて行くと、その美しい場所に似つかわしく無い気味の悪い森が見えてきた。まるで「眠り姫」のいばらの森のような棘のある不気味な植物が密生していた。ケムケムは魔法で剣を出し手に持った。
「オレが先頭を進む。そもそもみんなを巻き込んだのはオレの悪戯のせい。誰も危険な目に遭わせられないからな」
「そうじゃ!この悪ガキめ!何の関係も無いワシらを巻き込みおって!ワシなんか子供の頃は悪戯なんかした事も無かったぞ!」
(はってむさん、さっきと言ってる事が違う…)
「そんな事を言っても始まらないよ。ケムケムだって、こんな事になるとは思わなかったんだし…ケムケム、気を付けて進むんだよ」
「うん。みんなの命はオレが責任を持って守るよ」
ケムケムは剣で植物の枝を切り払いながら進んだ。