「異世界の不思議な友達」その7「溺れたはってむ」

100リットルの涙を流す消しゴムくん。

「ぼ…僕は何にも出来なかったぁー」
ケシゴム君は泣き出してしまった
「そ、そんなことないよ。情報を調べてくれたじゃないか・・。だから泣きやんゴボッ!ゴボガボボ…
ケシゴム君は1分間に100リットルのなみだをだすことができるのだ。

ゴゴゴゴゴゴ…
「うわあああ!」
消しゴムくんの涙がどんどんあふれ出し、あっという間に洞窟のなかは増水していった。妖精の氷まで水が浸かり始めた。
「ああ!この子が水浸しに!」
だが、案ずるより産むが易し。妖精のいる氷が浮かんできて、人志たちのところまで浮かんできた。
「助かった!皆、これにつかまれ!」
「ケシゴム君、君のお陰だよ」
皆は水の流れに乗って洞窟を抜けていった。


はってむさんが溺れちゃった!

「ケシゴム君、君のお陰だよ」
この言葉を言われたケシゴム君はピタッと泣き止んだ。
洞窟から抜けたとき、皆は何か足りないことに気がついた。
「あれ?なんか足りないよ。」
「はってむさんがいないよー!!」
「僕が助けに行くよ!」
ケシゴム君は洞窟の壁につたってはってむのところへ泳いだ。
「あ、はってむさん!」
はってむの口から泡がちっとも出てこない。どうやら酸素が尽きてしまったようだ。
「た、たい、大変だーーー!」

人志とヘンリーははってむを泳ぎながら洞窟の外まで運んでいった。かなりの水を飲んでしまったらしく、はってむは息をしていなかった。
「どうしよう…僕のせいだ」
消しゴムくんはまた泣きそうな顔になった。
「や、やめて!今度は俺たちが溺れちまう!」

「指圧なら私に任せて下さい」
突然、例の手袋ピンクが現れた。溺死寸前のはってむの自己防衛本能に呼び出されたのであろうか、実に不思議な手袋である。
手袋ピンクがはってむの腹を押すと出るわ出るわ、はってむの口から大噴水が噴き出した。よく見ると、噴水の上で鯉が跳ねている。さすが魔術師はってむ!!(笑)


呪いを解くんだ!

消しゴムくんの涙で、人志達と共に洞窟から押し流されて来たクロッカルは、部下男や猛獣達と一塊になってブルブル震えていた。ヘンリーはクロッカルに言った。
「クロッカル、この少年を元に戻してやってくれ。そうしたら命は助けてやろう」
「旦那方、私は何も悪気があってしたのではございません。このケムケムという小僧は妖精界でも札付の悪戯者。妖精仲間をバナナの皮で滑らせるは、びっくり箱で驚かすは、女の子のスカートにクモやゴキブリを入れるは、悪事のし放題。今度も私の力の源の入った宝玉に悪さをしようとしたので、懲らしめの為、天罰を与えた次第です」
「結構な事やってるんだなあ、このチビ…」
人志は氷の中の少年・ケムケムを見ながら冷や汗を垂らした。

「だからといって、こんな小さな子に、ここまでひどい事をしなくても良いだろう?」
「そうじゃ!子供の悪戯ぐらいでカリカリするな!ワシなんかこの年になっても悪戯ぐらいするぞ!」
いつの間にやら正気付いたはってむが、ヘンリーに同意した。人志は思った。
(そりゃ、アンタは精神年齢が子供並みだもんな…)
「ケムケムが悪戯するのは誰かに構って欲しいからで悪意は無いと思うよ。ボクが悪さをしないように言って聞かせるから、彼を許してやっておくれ」
「で、でも…」
「やい、クロッカル!命が惜しかったら、この子に掛けた呪いを解け!」
「は、はいっっ!!」

人志に凄まれてクロッカルは慌てて立ち上がり、尻を2回叩いた。
「ヘイ!」(ペンペン☆)
するとケムケムを包んでいた氷は跡形も無く消え去った。


目覚めたケムケム

「ん…?」
妖精・ケムケムは目をパチクリさせていたが、自分が元に戻れた事に気付くと喜びの歓声を上げた。
「イヤッホーーーッッ!!オレは自由だーーーっっ!!」
「だぁ〜〜〜〜っっ☆★☆★!!!!」
ケムケムが喜びの余り抱えていた宝玉を放り投げると、クロッカルはその宝玉を慌てて受け止めた。
「何なんだ、このガキは……?何だか、イメージが…」
人志は呆れ顔で呟いた。ますます誰かに似ているような?

ヒューン、ポトッ
何かが人志の手元に落ちてきた。人志の手の中にはグロテスクな毛虫が蠢いていた。
「ぎゃああああ!」

人志は絶叫して思わず毛虫を放り投げたが、今度はヘンリーの頭に毛虫が落ちた。
「うわーーっ、はってむさん!パス!」
「うぎゃーっ!毛虫は大嫌いなんじゃー!」
皆がわめいているそばで、ケムケムが押し殺して笑っていた。
「お前かー!まてーっ、きつく叱ってやる!」


皆に叱られて、しょげるケムケム。

「ケムケム、テレパシーを持っているなら今までの事は、みんな解かる筈だよね。キミはこれだけたくさんの人達に迷惑を掛けたんだよ」
「そうだ!オレもヘンリーもお前を助ける為に傷だらけになったんだからな!」
「はってむさんなんか、危うく溺れ死ぬところだっかんだからね!」
消しゴムくんは憤慨した表情でぴょんぴょんと跳ねていた。
(そりゃ、お前のせいじゃ…)
ケムケムは皆に悪い事をしたと思ったのか、涙ぐんでいた。結構、態度が神妙である。

叱りすぎたかなと人志は一瞬思ったが、肝心なことを切り出した。
「消しゴムくんがヘンリーを呼んだのは君だって言ってたけど、もし、君がヘンリーを呼び寄せたなら、ヘンリーを元の世界に戻せるんだね?」
ケムケムは首を横に振った。
「俺にはその人を元の世界に戻せる力はないよ。親父なら出来るけど、悪い奴に捕まってしまった…」
「何だって!」
皆はケムケムの言葉に驚愕した。


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