「異世界の不思議な友達」その6「氷づけの妖精」

氷漬けにされた妖精。

人志・ヘンリー・はってむは、消しゴムくんに案内されて山奥の洞穴の中に入って行った。この洞穴の中は、暑い夏であるにも関らず、どういう訳か真冬のように寒かった。
「ブルブル……こんな事なら厚着して来るんだった」
「そう言えば、人志さんの服って夏向きだもんね。一言断りを入れて置くんだった。ゴメン」
消しゴムくんは、済まなそうに人志に言った。

「消しゴムくん、この子は…」
一同が行き着いた場所には、一つの氷塊があった。その氷塊の中には、大きな光る玉を持った一人の少年の姿が…!
「この妖精の少年は、イタズラのつもりで洞穴に祭ってある聖なる宝玉を持ち出そうとして呪いに掛かったらしいんだ。誰かに助けて貰おうと、今までテレパシーを送り続けていたんだって」
「そうか、彼の必死の思いが不思議な力となって、炎の魔法が使えるボクをこの世界に呼んだのかもしれないね」

「それにしても、この少年、長い事氷漬けになっていて、よく死ななんだのう…」
「…」
はってむの、すっトボケた言葉は無視して、人志とヘンリーは妖精の少年を哀れむように見つめていた。
「よし、ボクがキミを助け出してあげるよ」
「でも、この子誰かに似てるなあ…?」


『氷の剣』を発動するヘンリー

「まてよ。この氷からは不思議な『気』を感じる。この氷の精霊からもらった『氷の剣(アイスブレード)』と同じ力。」
おもむろに剣を抜いた。抜き身の剣はぼうと青く輝き、そのとたん、冷気の風が剣に集まった。剣は水晶のような刀身から青く細い光を放ち、妖精の少年が包まれている氷を包んだ。
すると氷がみるみる縮んだ。なんと剣は氷の力を吸い取っているようだ。

「いかん、氷が!」
「ボスに怒られちまう。やべぇ!」
「おらぁ、オメーラなにやっとるか!」
突然、人志たちの目の前に気味の悪い黒い服を着た何者かが、数匹のライオンとチーターを連れて現れた。


クロッカル、出現!

「ふふふ、私は闇の使者、クロッカルだ!」
「おまえはクロッカルなら、シロッカルはいるのか?」
はってむの駄洒落を無視し、クロッカルはヘンリーの前に歩み寄った。

「えぇい!『死の猛獣』達よ!この金髪の少年を食い殺すのだ!」
キシャァァァァァ!
「そんな獣なんか通用しないよ!」
「はっ、なにを言うか!この猛獣達は闇の生き物。そこらの猛獣とは訳が違うわ!」
猛獣達は闇の中に溶けて消え、ヘンリーに噛み付いた。
剣で刺そうとするとふっと闇の中に溶け込み、見えなくなる。

「やめろぉ!」
人志がクロッカルに突撃した。しかしぶつかる直前、猛獣の一匹が人志に噛み付いてきた。
もはや戦うことができる者はいない。人志もヘンリーも傷が深い。
事態はとんでもないことになった。

不死鳥シフォンを呼び出すヘンリー。起死回生となるか?

戦いの主力、人志とヘンリーは猛獣達の牙と爪によって深い傷を負ってしまった。
「くそっ、冗談じゃねぇ」
「ふはははっ、私に危害を加えようとするからだ。」
人志はくぅ、とうなりながら、どうすればいいかエルとルビと話していた。
「もうどうにも…」
悔しそうにエルが言った。
「チクショー!!」
今にも地団駄を踏みそうなルビ。

そんな時、ヘンリーは不思議な声を聞いた。風のような、なでる声がとても傷に心地好かった。
『貴方は神秘の力を持っているのですよ。その力は人志さんに新たな力を与えるもの。もちろん貴方も『魔物使い』の力を極限までひきだせます。そして世界中でただ一人の『招換』を使える魔物使い。さぁ、不死鳥シフォンを呼びなさい。シフォンの涙でみんなの傷を癒すのです。』
声が消えた。ヘンリーは力を振り絞って立ち、手を天にかざした。
「我が不死鳥シフォンよ!我が声にこたえよ!」
空中に印が現れ、そのなかから鳥が現れた。

「人志さん、貴方に神秘の力が宿っています。その力を引き出す事が出来ます。」
「手強いヤツにも勝てるか?」
ヘンリーはうなずいた。
「じゃあお願いするよ。」
ヘンリーは人志の額に手をあてて瞑想した。


目覚めよ、内なる力!

ヘンリーが人志の額に手をかざすと人志の額の装飾が輝き始めた。そして、だんだんと傷も癒え始めたのだ。
「あっ!何をしてる!貴様!」
クロッカルが2人の様子に驚愕した。


俺に力を貸してくれ!

人志の心の中に、不思議な声が流れてきた。
『天と地の勇者、天地の戦士よ天から雷(いかずち)が降り注ぐならば地からは炎がはいあがってくる。そなたはその両方を使えるのだ。さぁ、願え!新たな力、雷と炎。2人の王にも使えることはできない表裏一体の能力を!』
人志は立ち上がって、右手の人差し指を天に向けた。
左手の人差し指は地に向けた。

ゴゴゴゴゴゴ!
周りは激しく揺れていた。
「お、おのれ!」
クロッカルが剣を持って人志に向かっていったが、強力なバリアーのようなものが彼を跳ね返した。
「グワッ!」
クロッカルはうめき声を上げて倒れた。

悪者の正体、見たり?

「クロッカルのとっつぁん!」
岩陰からクロッカルの仲間と思われる者が数人現れた。
その中の一人の黒いフードがぱさりと落ちた。
「ひっ、なして天地の戦士があの幻の魔法を発動できるのめ?!」
『黒の者達』をよそに人志になお力を注ごうとするヘンリーを食い殺そうとする獣達。しかし不死鳥シフォンがにらめば「くぅん」と後退せざるを得なかった。

『俺にはこんな能力があったのか…』
瞑想しながらそんなことを思っていた。
「すごい!世紀の大発見!世界一の魔術師天地の戦士様!」
はってむはそんなことを叫んでいた。


「ヘンリー、大丈夫か!」
人志はヘンリーの傍に駆け寄った。
『心配いらない…彼の傷は私が癒します。天地の戦士、あなたのお陰でヘンリーたちとこの氷の中の妖精が助かったのですよ。ありがとう。』
「そ、それは、あなたとヘンリーが僕の力を引き出してくれたお陰です。」
人志は不死鳥シフォンの言葉に照れくさそうに笑った。


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