「こんにゃろう、さっさと来やがれ!」
天地の戦士=人志は蛇男を挑発した。さっきからずっと叩いたり蹴ったりするがあまり効果はないようだった。
人志はひるまず闘った。しかし、蛇男は全く仕掛けてこない。
嫌な予感を覚えた天地の戦士は思い切って挑発したのである。
「ふん。お前が疲れてくれれば息の根を止めてやろう。」
「馬鹿かてめぇ!」
ルビたちが注意するのも聞かず、天地の戦士は蹴りを入れた。何度も何度も。
(管理人註・くどいようですがルビとエルは人志にしか見えません。)
「クソ!てめぇのせいで3連休が台無しだ!」
この言葉に、ヘンリーはびっくりした。
「全然攻撃が効いてないのにあんな事を…すごい」
ヘンリーはふと気が付いた。
「ぐにゃぐにゃの体に体術が効かないなら…」
「ここは僕に任せてください。」
「?」
人志はヘンリーの顔を怪訝そうに見た。
今度はヘンリーが蛇男の前に歩み出た。
ヘンリーはおもむろに呪文のようなものを唱え始めた。
「…」
すると、ヘンリーの手に火球(かきゅう)が現れた。
天地の戦士も蛇男もギョッとしながら見ていた。
ヘンリーは何かを見透かすように蛇男を見つめた。金色の瞳にうっすら紅色がかかると同時にヘンリーは何かを押すように手をかざした。
すると火球から蛇が現れ、炎の蛇は蛇男にぶつかって行った!
ドガァッ!!
「ぐわぁぁぁぁぁ!」
蛇男の断末魔と共に炎の蛇は霧散した。後に残ったのはまだ少し息のある黒コゲの蛇男だけだった。
「天地の戦士さん!とどめをお願いします。」
「わかった!」
天地の戦士は右腕をつきだした。
人志は武器用腕時計を蛇男の方に向けこう叫んだ。
「カタルシス・ミスト(浄化の霧)!」
その瞬間、時計から眩い光が発射され、蛇男は跡形もなく消え去った。
「ギャアアアアア!!」
「ふう…どうなるかと思ったぜ…」
「すごい力です。天地の戦士さん。初めまして、僕はヘンリーと申します。」
ヘンリーは人志の傍に歩み寄って手を出した。人志は照れながらヘンリーと握手した。
「あの、俺、その名前なんだか恥ずかしいから、『人志』でいいよ」
「えっ?」
ヘンリーは人志の発言に目を丸くした。
「自分の本名をさらけ出す正義の味方がどこの世界にいますか!」
右耳のピアスから天使・エルの怒鳴り声が聞こえた。
人志は一瞬しまったと思ったが、ヘンリーはさほど気にしていない様子で笑っていた。
「分かりました、人志さん…」
「ヘンリー、君も不思議な力を持っているようだけど…」
「実は…」
ヘンリーは困った表情でおずおずと切り出した。
「僕はこの世界の住人ではないんです。」
「ええぇ!?」
人志=天地の戦士は思わず大声を出してしまった。周囲の人々(と言ってもほとんどの人は逃げていたが)が視線をヘンリーから人志にやった。真っ赤な顔で「オイ!」とヘンリーのむなぐらをつかむと「もっと人気の無い所で話せ」と言った。ヘンリーはにっこり笑って「はい。」と答えた。
「僕はオルトと言う小国の王子です。そのオルトに帰る途中、不思議な青い穴に落ちたんです。そしたらここに来たんです。」
はぁ、とヘンリーはため息をついてうつむいた。
「あぁ、あの時妻と仲間の前で情けない声を出してしまったけど。聞いてませんように。」
そんな1人ごとをつぶやいていた。
『そっちの心配より帰れるかの心配をしたらどうだい』
苦笑しながら人志はそんな事を考えた。なんと順応性の早い事だ。まぁ確かに彼も不思議な力を持ち、天使と悪魔の声を聞くという通常では在りえないものなのだ。そのせいもあるのだろう。
「どうしよう、エル、ルビ」
人志はテレパシーでエルとルビに話しかけた。
「ヘンリーの言う『不思議な青い穴』の事は存じませんね…もしかしたら、天界王さまと閻魔大王さまがご存知かもしれません」
「俺もさっぱりだ。その方がいいかも」
「そうだな、連絡してみようか…」