「クイズの道は険し!」その9「親」

その間に6人目も脱落した。
『立て続けにアホ揃いで退屈だな…もっと手強い奴は現れんのか…?』
例の影の男は、あくび雑じりに思っていた。
「次の挑戦者は、立花夕樹さん…あれ?立花夕樹さん!?」
司会者が名前を呼んでも、そこにはすでに夕樹の姿は無かった。
「トイレかな?なら、一言断りを言っていく筈だが…?」
司会者の困った様子に、バレンタインは勝ち誇ったように高笑いした。
「ぬはははは!!どうも怖気づいて逃げ出したようだな。名を呼ばれてその場にいなかった者は棄権と見なす!!」
「…で、では次の次の挑戦者…銅鑼木由良男さん…あれっ?銅鑼木さん!?」
「ぬはははは!!ぬはははは!!また棄権か?今回の挑戦者は腰抜け揃いよのう!!」
果たしてドラキュラ男はどうしたのか!?

「おじさーん!タイヤキお食べよー!」
「ぎゃあ〜〜〜〜っっ!!私は甘い物は苦手ざます!!」
何と、催眠を掛けられたタマに追い掛けられていた…(汗)。
「おい、タマはどうした?」
「さっきまでゴキブリライダーとアホ話してたのに、気まぐれな奴だ」
「ゴキブリライダーでは無い!!仮面ライダーゾロだっっ!!」

「うるさーーーい!!!ドラキュラーーーッ!!お前、何やってるんだーーーっ!!」
ドラキュラ男の背後から甲高い声が響いた。彼がおびえた表情で振り向くと一人の帽子をかぶった金髪の少年が立っていた。ぷりぷりした表情でドラキュラを睨み付けている。
「ぼ、ぼっちゃん!!」


怪物王子現る。

「お前、こんなところで何を遊んでるんだ?クイズに出てた筈じゃ無かったのか?」
「坊ちゃん、私は好きでやってるんじゃ無いざます!あの猫の怪物が私を追い回すんざます!」
ドラキュラ男は後ろから追い掛けて来るタマを指して言った。
ゴイーーーーン!!
金髪少年の腕が伸びて、タマの顔面を殴った。タマは廊下にひっくリ返った。
「あいてててて…痛ーーーーい!!…あれ?ボク、こんなところで何してんの?」
「何だ、お前。何も覚えて無いのか?」
タマは殴られたショックで正気に戻ったらしい。タマは怪しい男を追い掛けているうちに意識が欠落した事を2人に話した。

「そんな妙な力を持った奴なんて、きっとただ者じゃ無いぞ。おい、ドラキュラ。今からその男を捜すから手伝え」
「そーんな、坊ちゃん!私はこのクイズで1000万円を取る為に猛勉強したざますよ!」
「バカもん!そんな事言ってる場合じゃ無い!このクイズは何者かに妨害されてるかもしれんのだぞ!クイズに答えてる時に操られたら1000万もクソも無いだろ!!(それにオレは、はなからお前に期待して無いぞ)」
「坊ちゃん、何か言いましたか?」
「いや、こっちの事だ。とにかく、この国の総理やみんなの為に協力しろ!」
「それならボクも探す」
金髪少年、ドラキュラ男、タマの3人は会場内へ散って行った。その時、金髪少年はふと思った。
「はて?あの猫、どこかで見たような…?」(注:内輪のネタなので聞き流して下さい:笑)

その頃、2人もの棄権者を出した解答者組は総理と人志の2人を残すのみとなった…。


1000万を獲得することが容易いものでないことは人志はとっくに分かっていた。しかし、総理と自分だけが残った今、自分が逃げ出したら総理が不利になってしまうのは明らかだった。沈黙を保っていた2人だったが、総理が話しかけてきた。
「人志くん、君はなぜここに出場しようと思ったんだね?」
突然のことに人志は戸惑った。友達が勝手に応募したから…とは口が裂けても言えなかった。しどろもどろに思いついたことを話し始めた。
「お、俺…いや、そろそろ両親の結婚記念日なんです。それで旅行でもプレゼントしようかなあと…」
「ほう、いまどき感心だね…何か思い入れでもあるのかい?」
「偶然なんですけど、俺が養子になった日と結婚記念日が同じなんです」
「養子…?」
総理の言葉に人志はしまったと思った。自分の生い立ちをすすんで話すつもりはなかった、いや、話したくなかった。実際、もらわれたことで子供のころ、いじめられたことがあったから尚更だった。

「…すまない、聞いて欲しくないことを聞いてしまったようだね…そうか、ご両親は君とは血がつながっていないのか…」
総理も何を言っていいのか分からない様子である。人志はそんな総理の気持ちを慮って、こう話し始めた。


今の両親に思いをはせる人志。

「総理。オレは赤ん坊の頃、孤児院に捨てられていたんですが、その事に付いては気にしていません。オレを引き取ってくれた父さんと母さんはオレを大切に育ててくれたし、オレも今では2人を本当の親だと思ってます。だから…オレを産んでくれた『親』の事も恨んでません。むしろ、産んでくれた事に感謝しています」
「そうか…それを聞いて安心した…」
総理がしみじみ言うと、バレンタインが口を開いた。
「おい、司会者!この2人のうちのどちらを先に挑戦させるのだ?」
司会者は2人のほうを向いて質問した。その表情には半ば諦めの色が混じっていた。
「どうしますか?」
司会者の言葉に人志は立とうとしたが、総理が止めた。
「私が出よう。これ以上、君には迷惑をかけるわけには行かない。私の一言で無関係な人たちまで巻き込んでしまったんだ、自分でまいた種は自分で刈り取らなければいけない…どんな結果であろうと必ず自分で責任を取る」
「…総理」

ワー…
とあるひなびた建物の施設。建物の中から声が聞こえていた。ここは人志が生まれてから6年間育てられた孤児院「あすなろ」だった。赤ん坊の彼を拾ったここの孤児院の院長・星野輝子が廊下を歩いていた。向こうから子供が2、3人駆け寄ってきた。
古くなった廊下がギシギシと軋む。輝子は柔和な表情で笑みを浮かべた。
「まあ、廊下は走っちゃいけないっていっているでしょう」
子供の一人が輝子のスカートのすそを引っ張った。
「先生、人志おにいちゃんがTVに映ってるよ!」
「えっ?」
輝子は子供たちに押されながら、TVがある居間に向かった。TVの向こうには解答席に座り司会者と向かい合っている総理とその後ろに座っている人志がいた。
「人志ちゃん?」


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