明の後ろにはめがねの気弱そうな中年男性が座っていた。明の父親である。そういえば、明は父親の工場の借金を返すために働いていると聞いた事がある。彼の父は涙を流しながら、祈るように手を合わせていた。
「明、すまない…父さんのために…お前に苦労をかけて…」
「親父、勘違いするなよ、1000万を取ったら俺はこのオカマキャラとスッパリ決別して…」
「女になるんですか?」
司会者が何気なく発した言葉に明の顔が凍りついた。彼の拳がわなわなと震えている。
「なんか言ったか?」
「馬鹿たれ!誰が女になるだとコラ!」
「明が女になったら実写版クレヨンしんちゃんの松坂うめ先生になれば良いじゃないか。」
「もし俺が女にでもなってみろ。オカマのおっかけと親父ギャルのおっかけから逃げなきゃならなくなるぞ絶対!」
「何故親父ギャル…と言うか今時親父ギャルって言う人いるかな…」
「と、とにかく、1000万を取ったらおかまキャラから決別して真のヒーローに生まれ変わって再デビューします!」
明が真顔で述べたもの、観客の反応はいまいちだった。その時、ドラキュラ男が明の元にふらふらとやってきた。
「とんでもないざます!そのキャラを捨てるなんてもったいないざます。いっそのこと手術をして…」
ドスッ!
明は男のみぞおちに肘鉄を食らわせた。男は真っ青な顔でその場に座り込んだ。
明がクイズに挑戦している頃、例の影の男はタマに追われて会場内の廊下を走り回っていた。
「おじさーん!タイヤキお食べよー!」
「えーい!しつこい猫め!!」
男は最後の手段とばかりに、タマに向かって振り返り念波を発した。
『猫よ、オレは腹は空いてはおらんのだ!タイヤキ食わすなら、もっと飢えた奴に食わせろ!』
「はい…分りました…」
術に掛かったタマは、千鳥足でフラフラとその場を去った。
明への出題も大詰めを迎えていた。もともと理系の問題に強い上に、このオカマ職から足を洗う為に相当勉強したのであろう、とうとう1000万円に挑戦となった。
「では最後の問題です。遺伝子を構成する塩基のうち、実際に存在しないのはどれでしょうか?
A.T塩基、B.G塩基、C.M塩基、D.C塩基…」
明が考えているところへ、またもやあの念波が――
「答えはA!T塩基!!」
「…ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー!!」
しかし、結果は…。
「残ねーーーーーん!!答えはCでした!!」
明の顔は泣きそうに崩れた。それとは裏腹に会場は歓喜に沸いた。
「やったー!!これであきらちゃんがやめずに済んだぞー!!」
「またストレス解消に、あのアホ芸を見られるー!!」
よく見ると、明の父とドラキュラ男まで一緒に喜んでいる。
「テメーら、いい加減にせえよ!!」
絶望と怒りのあまり、涙をちょちょ切らせる明であった。
次は、ケムゾウの担任・小池だった。
「小池さんよー!初っ端からリタイアするようなハズいマネすんじゃねーぞ♪」
「うるさい!!嬉しそうに言うな!!」
観客席で冷やかすケムゾウに向かって小池は吠えた。
「あー、小池さん。いいから早く席について」
「問題です。第1問、変身ヒーロー『仮面ライダー』のモチーフになった昆虫は、次のうちどれでしょう?A.トンボ、B.セミ、C.バッタ、D.ゴキブリ・・・」
『いかんなあ…ワシャ、こういう分野は苦手なんじゃ…こうなったらライフラインを使うしか無いな…』
小池がライフラインのテレフォンを使うと、モニターには里方のおっかさんの顔が映った。
「おー、せがれやー!元気でやっとるかー!?」
「母ちゃん、そういう話は後!ちょっと教えて欲しいんだが、『仮面ライダー』のモチーフになった虫は、トンボ、セミ、バッタ、ゴキブリのうちのどれかなあ?」
「なんじゃ、そんな事も知らんで学校教師が務まるか。『仮面ライダー』の元になったのはゴキブリに決まっておるじゃろ」
「そうか!母ちゃん、ありがとう!!」
自信たっぷりの母親の言葉を信じ、小池もまた自信たっぷりに答えた。
「D!!ゴキブリ!!」
「…ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー!!」
小池の自信に満ちた表情はくずれる事は無かった…しかし――
「残ねーーーーーん!!」
ガガガーーーーン!!
「正解はC!バッタでしたーーーーっ!!」
「だははははは…!!」
観客席ではケムゾウが大爆笑していた。
「小池先生よー!!アンタのおっかさんは物知りだなー!!『仮面ライダー』のモチーフってゴキブリだったのかー!?オレ、初めて知ったぜ」
「だっ、黙れ〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」
それにしても、小池のおっかさんは何を根拠に斯様な答えを・・・?
「決まっておるじゃろ。そのまんまの姿でないかい?」(母親談)
「それにしても、お母さん。何故ゴキブリだと?」
「だって、そこにいるじゃない!」小池の母はテレビ画面に向かって指差した。
小池の母の言葉にケムマキと童馬が振り向いた。背後には全身を黒で包んだ男が座っていた。頭にはぶっとい触覚をこさえている。
「だあああああ!なんだ!?お前は!」
「小池の母ちゃんの言ったこと本当だったのかよ!?」
「仮面ライダーがバッタだと誰が決めた?」
このライダーの正体やいかに?
「あー…ただいま…わっ!何この人!」
影の男の術に嵌ったタマが戻ってきた。タマはなぞのライダーを見て指差した。黒づくめの彼は憮然とした表情でタマを見た…仮面をかぶっているので分からないが。
「人を指差してはいけないって親に教わらなかったのか?」
「僕、人じゃないよ。猫型宇宙人」
「屁理屈こねるな!私には『仮面ライダーゾロ』という名前があるのだ!」
「ゾロ…ゾロは着てても心は錦って言うね」
「それはボロだ!」
「タマ、それ以上困らせてどうする」
「あ、レス、仮面ライダー『ガロ』さんって面白いんだよ」
「その雑誌知っている人、この文章読んでいる人の中でどれだけいるんだ!」
「かなりマニアックだな…ガロ、ふふふふふふ」
会場の白黒コンビは取り留めのないボケと突っ込みを繰り返していた。
「芥川。コイツ何か胡散臭いぞ(つーより、神に見放されたファッション感覚だが:苦笑)」
「要注意人物だな(つーても、ゴキブリは人物にはならねえな:苦笑)」
そうしている間にクイズは進められ、小池に続いて5人目の挑戦者も脱落し、6人目の挑戦者の番となっていた。
傍でそれを見ながら、明は1人難しい顔をしていた(当然今は、オカマから普段の姿に戻っている:汗)。その様子に気付いた夕樹は、明に声を掛けてきた。
「明、どうした?何考え込んでるんだ?」
「ああ、あの最後の問題の時だが…」
「うん?」
「一瞬だけ意識が途絶えたんだ。気が付いた時には、不正解で脱落してた…」
「何だって!?」
「あ、キミもかい?オレもそうだったんだ」
2人の話に割って入ってきたのはアオハルだった。彼も明と同じく最後の問題を答える際意識が欠落したらしい。
「最後の問題まで漕ぎつけた2人が、同じ症状で脱落…ちょっと引っ掛かるな…」
「まさか、ワルワル団がオレ達から1000万円取らせない為に何か細工してるんじゃないかな?」
「考えられるぜ!奴らの手先がテレパシーで念波を送っているに違いねえ!!」
「よし!手分けして、そいつがどこに隠れているか探し出そう!!」
「しかし、夕樹。お前の出番が回ってくるかもしれないのに、良いのか?」
「そんな事気にしてる場合じゃねえよ。誰も1000万円取れなかったら、それこそ奴らの思う壷だからな」
「分った。それじゃ2人とも気を付けろよ」
「ああ。明もな」
「青春だなあ〜♪」
明・夕樹・アオハルは最後の言葉を交わすと、それぞれ会場内を散らばって行った。