「クイズの道は険し!」その10「痛恨のミス!そして、最後の挑戦者」

影の男をついに見つけた!

輝子や子供達がテレビに出ている人志に気付いた時、すでに総理への質問が始まっていた。
この総理、総理大臣になるだけの事はあって、なかなかの博学である。客席の後ろで見ていた例の影の男は、この展開を見ながら1人考えていた。
『最終問題まで待つのも退屈だな…もう挑戦者も残り2人だけだ。よし、最後まで待つ事は無い。このまま2人共リタイアさせてやろう、ふっふっふっふ…』
影の男が総理に向けて邪悪な念波を発しようとした時、その場にタマ、金髪少年、ドラキュラ男の3人が駆け付けた。
「あ!あのおじさんだよ!!ボクに変な催眠術を掛けたのは!!」
「おい!怪しい奴!!お前は会場を占領している悪者達の手先か!?許さないぞ!!」
影の男も3人に気付き、その方に顔を向けた。
「うるさい奴らめ。こうなればお前達を、オレの力で眠らせてやる」

影の男は3人に向けて念波を発した。
「面白いざます。私も催眠術なら負けないざます」
ドラキュラ男も負けじと、影の男に催眠念波を発した。
「眠〜れ〜、眠〜れ〜…♪」
「むむむ、やるな!!」

傍から見ると非常に間抜けだが、真剣に戦う2人

今ここに、影の男とドラキュラ男の壮絶な催眠術対決が始まった!
「坊や〜、悪い子だ寝んねしな〜…♪」
「ねんねんころり〜、ねんころり〜…♪」
「眠れや、眠れ〜…♪」
「サンタ〜ル〜チ〜ア〜…♪」
お互いふざけているのかマジなのか分らないが、真剣なのは確かである(笑)。
「おい…オレ、何だか眠〜くなっちゃった…」
「ボクも…ふぁ〜あ〜…」
グウグウ…。
影の男とドラキュラ男の念波の煽りを受けて、タマと金髪少年はその場に寝入ってしまった。2人の男はお構い無しに戦い続けていたが、そのお笑い合戦以外の何物でもない死闘の場をワルワル団の手先を探索中の夕樹が見つけた。

「何だ?ありゃ…」
夕樹は呆れ顔で戦いを見ていたが、その内にドラキュラ男が徐々に押され始めてきた。
「あのオッサンは解答者の1人…傍から見るとアホみたいだが、何か技を掛け合ってるな…」
夕樹は直感で影の男を敵と見て、ドラキュラ男に加勢するべく影の男に攻撃を加えた。

男に鉄拳を加える夕樹

バキッ!!
夕樹のパンチを受けた影男は床に転倒!打ち所が悪かったのか、そのまま気絶してしまった。
「夕樹!どうした!?」
この騒ぎを見つけ、明とアオハルも駆け寄って来た。
「見てくれ。こいつ、やっぱり悪者の手先だ。帽子の中に仕込んでいたこの機械で、念波を発して解答者を操ったんだ」
夕樹は影男の帽子の中の機械を一同に見せた。夕樹に助けられたドラキュラ男は彼に礼を言った。
「どこの坊ちゃんか存じませんが、もう少しで負けるところだったざます。助けてくれてありがとうざます」
「いやあ、別に良いよ…」
「よし、こいつをふん縛っておこう。後は、クイズの結果を待つだけだな…」

総理の解答する様子を見ながら、人志は懐から例の滸泉神の目玉を取り出した。最初見た時は気持ち悪いと思ったが、今では皆を希望へ導く貴い宝物に見えた。
『幸運の目玉か…もし、お前がオレに幸運を与えてくれる力を持っているなら、オレの受ける幸運を総理に与えてやってくれ。頼む…』
「ざんねーん!」
だが、人志の願いをあざ笑うかのように会場から司会者の叫びが聞こえた。夕樹達は会場の方に目を向けた。総理が答えたのは100万の問題だった。誰もがその問題はクリアすると思っていたので困惑していた。
「おい、どういうことだ?この期に及んで…」
夕樹が影男の胸倉を掴んですごい形相でにらみつけた。男は彼の様子に困惑しながら弱弱しい声で言った。
「ち、違う、俺は何もしていない!」

最後に残ったのは人志。

総理は100万で脱落した。彼は人志のほうをじっと見つめたままだった。そして観客の方を向いて頭を下げようとした。
「…今回の件に関してはすべて私の責任です、よって…」
「待ってください!総理、まだ俺が残っています!」
「しかし…」
「俺の結果がでるまで待ってください、はっきり言って俺は自信がありません…でも、俺はやらなくちゃいけないんです…」
「…?」
「1000万円取って、俺が育った孤児院にお返しをします!」
「キミはご両親だけで無く、お世話になった孤児院にもお返しするつもりなのか」
「はい。オレを育ててくれた孤児院の先生はオレにとってのもう1人の母親。オレはその『お母さん』に対して受けた恩を返したいんです。孤児院にいるオレのたくさんの『兄弟』達の為にも…」

「先生、人志兄ちゃんがボク達の為に1000万円取ってくれるんだって」
「人志ちゃん…」
テレビでその様子を見ていた輝子は、目を潤ませながら画面に映る人志を見つめていた…。

「ひとし、あれを見ろ!」
ルビの声に人志は我に返った。観客席には潔ともう一人の友人の茂、そして傍らには「がんばれ、人志君」と書かれた幕を持った見知らぬ中年から熟年の男女が10数人集まっていた。
「人志!」
「潔!茂!これは一体…?」
人志の言葉に垂れ幕を持っていた一人の男性が前に出てきた。
「人志くん、初めまして。私たちも『あすなろ』で育った院生なんだ。何十年前に星野先生のお父さんにお世話になったんだよ…私より若い人は輝子先生が若い頃を知っている。」
「そうなんですか…。」
思わぬ人たちとの出会いに人志は驚くばかりだった。

「ところで皆さん、どうしてここへ…?」
人志が訊くと白髪の女性が神妙な顔で話し始めた。
「あなたもご存知だと思うけど、『あすなろ』がなくなってしまうかもしれないの…」
「なんだって?」
女性の言葉に総理が驚いた。彼女は総理の姿を見て一瞬驚いた様子だったが、そのまま続けた。
「経営が苦しくて『あすなろ』を閉じるかもしれないと輝子先生から聞いて、私たちは存続させるための資金を得るために募金を集めていたの…。善意のある方からたくさんのお金は集まったけど…足りないの…あともう少しなのに」
「…足りないっていくらなんですか」
「あと1000万あれば…」
「人志くん、君は知っていたのかね?」
「以前の先生の手紙で知りました…今、先生一人で孤児院をやっているんです。お金がなくて従業員も雇えないんです…俺の、皆の、もうひとつの『我が家』がこのまま消えてしまうのを黙ってみているわけには行かないんです!」


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