「そうか…人志さんには、そんな切羽詰った事情があったのか…」
人志の話を聞いたケムゾウ・ケムシ・童馬・明菜は、事の重大さを知り唖然とした。
「こりゃあ、何としても人志さんには勝ってもらいたいぜ。日本の為にも、人志さんが育った『家』の為にも…」
人志は1人心の中で呟いていた。
『オレは初めは自信が無かった…落雷のショックでいくらか頭が冴えたといっても、クイズで1000万取れるかどうか…だが日本を救うのはオレしかいないところまで漕ぎ 付いてみて、初めて『あすなろ』を救うのもオレしかいないという気持ちになってきた…オレはやる!!星野先生や幼い『兄弟』達、そして数多くの先輩達の期待に答え る為にも――』
こうして、人志への出題が始まった。
「それでは間さん、問題です。第一問、童話『ごんぎつね』の作者は次のうち誰でしょう?A.夏目漱石、B.川端康成、C.新美南吉、D.椋鳩十…」
人志は暫し考え込んでいたが…
「…C。新美南吉…」
「C.新美南吉…ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー…」
「正解!!」
最初の問題はクリアした。観客席のケムゾウ達、そして潔、茂、『あすなろ』のOB達は揃って歓声を上げた。
「良いぞ!人志さん!!」
「この調子で頑張れ!!」
人志への出題は更に続けられた。
「東京タワーが建設されたのは何時か?…」
「映画『ローマの休日』で主役を演じた女優は誰か?…」
人志は出された問題を次々にクリアしていった。その様子を見ながら、潔と茂は感慨深げに呟いた。
「凄いぜ、人志…オレはただ、何の気無しに人志の名前で応募しただけだったのに…」
「自分が育った『家』を救う為に猛勉強したんだな…」
「人志くん、どうか『あすなろ』を救ってくれ…!」
OB達は、ただ切実に祈った。
快調に駒を進める人志に、バレンタインはやや焦りを感じ始めた。
「あのガキめ…悪くすると1000万取るかもしれんな…なーに、その時には我が刺客・シャドーマンが念波を送って…」
「残念だな、オッサン!例の影男はオレ達がふん縛っておいたぜ!!」
「ややっっ!!お前達は!?」
バレンタインの後ろには、夕樹、明、アオハル、タマ、そしてドラキュラ男と金髪少年が勢揃いしていた。
「やい、ヘビメタ野郎!!オレ達に不正行為は許さないとか言っておきながら、手先にクイズの妨害をさせるとは随分と汚いマネをしてくれるじゃねえか!!お陰でオカマ キャラから決別するというオレの願いがオジャンになったぜ!!」
明がバレンタインに向かって憤然と言い放った。彼にとっては日本の郵政民営化よりそちらの方が重大なのであろう。夕樹はジト目で明をたしなめた。
「明、今そんな事を言ってる時じゃ無い…」
「そうざますよ。お陰で皆さん大喜びしてるざます」
「ドラキュラ!お前も余計な事言わんで良い!!」
「はい…」
ドラキュラ男も金髪少年の叱責を受けしょげ返った。そんな彼らに、バレンタインは冷淡に言い放った。
「ふん!我々は最初からあんな司会者や総理の提案など受け入れてはおらぬわ!あのガキが1000万取ろうものなら、その場で会場を総理もろとも吹き飛ばしてやるつもりだ、 ふっふっふっふ…」
「は!そんな事だろうと思ったぜ!オレ達がいる限り絶対お前らの思い通りにはさせないぞ!!」
「者ども!かかれ!!」
バレンタインが命令するとワルワル団のザコ軍団が襲い掛かり、ミリオネアの舞台裏はたちまち戦場と化した。夕樹・明・アオハルは見事な技でザコを打ち倒し、タマも 負けじと千手観音でザコをボコボコに殴り付けた。例の金髪少年は驚く事に手をハンマーに変えてザコを殴っており、ドラキュラ男もザコに噛み付き応戦していた。
「ぺっぺっぺっ!!マズイ血ざます!!」
その騒ぎを聞き付けやって来た小池と太宰は、現状の凄まじさにアタフタした。
「ど、どうしますか…?」
「と、当然、教職員という立場にある以上、こういう乱闘は止めなければ…」
「あ、あー、諸君…や、やめたまえ…」
バコッ!!バコッ!!
2人は乱闘に巻き込まれ、敢え無く気絶した。一体どうなるの!?日本の将来!!
「臨時ニュースをお伝えします。フ●テレビの人気クイズ番組『クイズ$ミリオネア』で郵政民営化をかけたクイズ勝負が行われていますが、解答者は富●在住の間 人志 君(16)一人残すのみとなりました…」
レポーターが淡々とミリオネアの様子を中継していた。そのようすを人志の両親は固唾を呑んで見守っていた。
「何てことだ…母さん」
父の茂美は息子が自ら矢面に立っていることに狼狽していた。
「あなた…」
杏子はTVをまっすぐに見据え祈るように手を合わせていた。
「俺の青春、受けてみろ!青春キイイイイック!」
ズバアアアアアアアアン!
「ワルワルー!」
アオハルのキックで戦闘員はスタジオの天井を突き破り飛ばされた。
ケムゾウ達は観客席で人志を見守っていたが、トイレから戻った明菜が一同に舞台裏が何やら騒がしくなっている事を告げた。
「何が起こったんだ?」
「よし、行ってみよう」
ケムゾウ達一行が舞台裏に来てみると、そこでは解答者の4人とタマ、見知らぬ金髪少年がワルワル団と大乱闘を繰り広げていた。
「うっひゃー♪ご恒例の乱闘シーンだぜ!こういうの見てると胸がワクワクするぜ!」
「喜んでるんじゃねえよ、国生…。しかし一体この騒ぎは?こちらの方には先生方が仲良くのびてるし…」
明菜をたしなめつつもケムゾウは不審そうに騒ぎを見つめ、乱闘中の一同に叫んだ。
「皆さーん!これは一体どうした事!?」
「キミ達!早く会場の人達を避難させるんだ!こいつらは最初から総理もろとも会場を爆破するつもりだったんだ!!」
「何だって!?ワルワル団め、純粋にクイズで立ち向かおうとしている皆さんを騙しやがって!!」
「兄貴、早くみんなに知らせよう!」
「ああ。人志さんには気の毒だが、今はそれどころじゃ無いからな」
ところが、その時彼らの前に怪しい影が立ちはだかった。
「待て!そうはさせんぞ!」
「むむっ!!お前は!?」
そこに立っていたのは、夕樹達に縛り上げられていた影男!それを見た明は驚きの声を上げた。
「ややっ!?自力で縄を解いたのか、影男!!」
「ふっふっふっふ…さっきは不覚を取ったが、今度はそうはいかんぞ!」
「やい、影男!性懲りも無くまた出てきやがって!邪魔をしようとしても無駄だぞ!お前がクイズの妨害に使った催眠装置はオレが壊したから、お前はもう何もできないだ けのデクの坊だぜ!」
夕樹の言葉を聞いて、バレンタインは嘲るように高笑いした。
「バカめ、ワルワル団の刺客が催眠しか能が無いとでも思ったか?このシャドーマンこそ我らの最後の切り札よ!行け、シャドーマン!お前の本当の姿を見せてやれ!!」
「分りました、バレンタイン人事部長。シャドーーーーーッッ!!!!」
バレンタインの命を受けたシャドーマンは、見る見るうちに巨大化した。体が大きくなると同時に服が破れ、先程の3倍の大きさの黒ずくめの影法師となった。会場内の 天井に届きそうである。
「うひゃーーーーっっ!!まるでデビ★マンみたいな変身だ!!」
「ぬはははは!!シャドーマンよ、邪魔者は皆殺しにしろ!!」