「今日は。今とっても困っている人かな?」
「う、うわぁ、誰だよアンタ!」
「初めまして。オイラは幸運売りの滸泉神って言います。今日、こちらのお宅に伺った理由はとっても簡単!貴方が今この日本で一番困っている人だからです。」
人志は滸泉神の突然の登場に面食らった。神といっているくらいだから天界王さまの知り合いだろうか。白髪の下から右目に巻かれた包帯が見え隠れしている。
「新手のセールスかい…?いっとくけどその手には乗らないよ。確かに困っているけど、上手い事いってなにか高いもん買わせる気だろう!」
人志は相手にしている暇はないという顔で、彼を見た。滸泉神は懐から何か取り出した。それは次第に大きくなり、石のようなものになった。
「とんでもない、どこかの新興宗教じゃあるまいし!そんなあこぎな商売はしませんよ…で、そこでですが。」
人志が滸泉神と話している頃、TV局ではとんでもないことが起こっていた。
「…」
「まあ、そんな顔しないでひとついかがですか…おっと、飲みたくても飲めなかったんでしたっけ」
赤ワインを注いだグラスを傾けながら、一人の男が不敵な笑みを浮かべていた。彼の前にはあの「ミリオネア」の司会者が猿ぐつわをされ、両手を後ろに縛られていた。
「騒ぎさえしなければ、何もしませんよ…ふふふふ」
「あんた、なんのつもりですか?!」
口をふさがれたままで司会者は怒鳴りつけた。
「私はある秘密結社の者。この番組の会場は我々の作戦に使わせて頂く。ふっふっふっふ…」
不敵にほくそ笑むワイングラスの男を見ながら、司会者は密かに思った。
『この男、この前の選挙活動の時に郵政民営化反対をしきりに叫んでいた男に似ている――』
その頃、滸泉神は懐から取り出した石のような物を人志に差し出していた。よく見ると、それは石では無く1つの目玉だった!瞳が赤いところを見ると、どうも彼の目玉らしい――
人志は滸泉神が右目の包帯を巻いている訳を悟り、不気味さのあまり青ざめた。
「幸運を売った証にオイラの目玉を預けます。もしもオイラの幸運が効かなかったり気に入らなかったら是非潰して下さい。何の問題も無ければ返して下さいね」
「バカ言えっ!!そんな気色の悪い物、受け取れるかっ!!」
「大丈夫。オイラの目玉は汚く無いです。こう見えても、オイラ幸運を売る神なんですから♪」
滸泉神は人志が嫌がるのも構わず、自分の目玉を人志の懐にねじ込んだ。
「だあああああっっ!!何を入れるんだっ!!このドアホ!!」
ちょうど、その時!窓から雷が飛び込んできた――
ドッカーーーーン!!
雷が都会の民家を直撃するという、今の時代では考えられない事が何故か起きてしまった。
直撃を受けた人志は、体や口から煙を燻らせながら床にぶっ倒れた。
「ひとしさん!!」
「ひとし!!」
エルとルビが同時に叫ぶのを聞きながら、人志は薄れていくなけなしの意識の中でこう思った。
『何が幸運を売る神様だ…とんだ疫病神だぜ…――』
人志が目を覚ますと、そこは病院の一室。ベッドに横たわる人志を両親が心配げに見詰めている。どうも運良く一命は取りとめたようだが、その時、人志はいつもと違う妙な感覚を覚えていた。
『おかしい・・・何だか、頭の中が広くなったような…?』
「人志、大丈夫か?」
「びっくりしたよ…どうなるかと思っていたよ…」
父の茂美(しげみ)と母の杏子(きょうこ)が人志が目を覚ましたのに気づき、安堵の表情を見せていた。
「なんだか頭がすっきりしてる…何か問題を出してくれないか、お前ら」
突然のことにエルとルビは驚いたが、エルはとりあえず問題を出した。
「桶狭間の戦いで織田信長が倒した武将は誰?」
「今川義元!」
人志は歴史が大の苦手だったが、即答で答えることが出来、彼自身も驚いていた。
「これは…きっと雷の影響で頭がさえるようになったに違いない…よし、どんどん問題を出してくれ!」