夏休みも終わり、2学期が始まって間もなくのことだった。ある日の夜、人志はとあるクイズ番組を自分の部屋で見ていた。
「貴方の人生を変えるかもしれない、クイズ$ミリオネア!」
TVの中では脂ぎった説教魔の司会者が満面の笑みで喋っている。人志はこの司会者が特に好きなわけではないが、クイズは楽しみにしている。この番組を人志だけでなく、天使・エルと悪魔・ルビも楽しみにしていた。
「あ〜、残念100万円でした…。」
エルが答えを間違えたらしく、残念そうな声を上げた。
「簡単に1000万当たれば苦労はしないぜ、なぁ、ひとし?」
ルビが人志に声をかけた。
「そ、そうだな…簡単にお金がもらえるわけ、ないよな。」
人志はからからと笑った。だが、人志がこの後、この番組に出ることになろうとは神様も知る由がなかった…。
「あ。」
人志は思わずつぶやいた。エルとルビは不思議そうに彼を見た。
「どうしたんだよ、ひとし。」
「いや、もうすぐ、父さん母さんの結婚記念日だなあって…」
人志は生まれてから6歳まで孤児院で育った。その後、人志が間の家の養子になってから、人志が養子になった日と養父母の結婚記念日と同じ9月3日と聞かされた。
「そうなんですか、ご両親は意識してなかったんですか?」
「たまたまそうなったって言っていたよ。」
「ふうん、そうかい…」
クイズ番組もいよいよ終盤。来週のゲストの予告をしていた。
と。
「来週のゲストは○△県×☆市に住む間人志さん!なんと16歳の男の子です!」
「いや〜どこまでいけるかとっても楽しみですね〜」
「はぁ?!」
「これ、もしかしてお前の事か…?」
「そうですね、○△県の×☆市に住んでる間人志なんて名前の人あまりいないですからね。」
「へぇーひとしこの番組に出るのか。頑張れよー」
「え、えぇぇぇぇぇ!!?」
「ほ、ホントに俺のことなのかな…?」
「珍しい名前ですし」
「お前しかいないと思うぞ。」
「ゃゃやっぱり…?(泣)」
ジリジリジリジリ…
1階からけたたましいベルの音が鳴った。階下から母の声が聞こえてきた。
「人志、潔君から電話よ〜」
「!」
ダダダダダダッ
嫌な予感がする。そう思いながら慌てて階段をおり、受話器を取った。
「もしもし…」
「よう、人志。あれ、見たぜ。お前出るんだって?」
電話から呑気そうな人志の友人・石田潔の声が聞こえていた。潔は小学校時代からの腐れ縁だ。人志は直感で「怪しい」と感じた。
「お前…何か知っているんだろう?」
人志の言葉に潔は一瞬、沈黙した。
「な、何のことだ?」
嫌な予感が当たってしまった。潔は図星であることを言い当ててられると黙ってしまう癖があったからだ。
「とぼけんじゃねえ!応募した覚えのないのに何で俺の名前が出て来るんだよ!!」
人志の剣幕に潔はあっさりと白状した。彼は嘘がつけない性格だった。だが、この時ばかり嘘であって欲しかったと人志は心底彼を恨んだ。
「わりぃ…まさか当たるとは思っていなかったんだよ…はがきを出す時にお前や繁の名前でも出したら…まさか、当たるとは…」
「なんだって!!」
人志は受話器を持ったまま、腰を抜かした。人前に出るのが苦手な人志にとってはTVに出ることは清水の舞台から飛び降りるに等しいことだった…。
「冗談じゃねえ!冗談じゃねえぞ!オイ!!一体、何の恨みで勝手にオレの名前を使いやがった!!どうせ書くなら自分の名前を書きゃいいだろ!!」
人志はいきり立って受話器の向こうの潔に怒鳴り付けた。
「自分の名前だったら、当たった時ヤバイじゃないか。勘弁してくれ、ほんの出来心だったんだから…」
「出来心で済むかっ!!オレは一体どうすれば良いんだよ!?」
「まあ、当たって砕けろで出場してみるんだね。ダメで元々。運が良けりゃ、まぐれで1000万が当たるかもしれねえからな。じゃあ、幸運を祈ってるぜ」
ガチャン!!
それだけ言うと潔は電話を切った。人志は途方に暮れた表情で受話器を置いた。
「鳴呼…どうしよう…(汗)」
「どうするもこうするもありませんよ、ひとしさん!!こうなったら来週に備えて勉強です!!やるだけやってみましょう!!」
「えーーーーっっ!!良いよ、オレ筆記試験でリタイアするから」
「ナニ言ってるんですか!!今こそ己の実力を試す良い機会じゃありませんか!!」
「その通りだぜ、ひとし。せっかくだから、オレも付き合わせてもらうぜ」
「お前らなーーーーっっ!!」
どうのこうの言っても、結局はエルとルビに頭の上がらない人志。泣く泣く2人に従うしか無かった・・・(汗)。
人志は最初エルたちの力を借りようと思っていたが、それはルビに止められた。
「ひとし、俺たちの力を借りるのは無理だぜ。エルが不正を許すはずないからな。それと天界王さまと閻魔大王さまもこのことは既に知っている。変なことをすれば、3人ともただじゃすまないぜ。」
「ああ…」
人志の目の前にはクイズの問題集が山積みになっていた…。