ここはある街の公園。ここで不思議な女の子(外見年齢12〜15歳)がめそめそ泣いていた。
髪の色はハニーブラウン。目は深海の様である。ただ不思議なのはこめかみのやや上に動物のような耳があること。
果たしてこの女の子は何なのか。そして泣いている理由は一体なんであろう?
彼女の名前は園(エン)。猫の妖精である。園は何か失くし物をしたようである。
「どうしよう…」
「3丁目の岸辺さんから炬が借りた中国語辞典失くしちゃったよー!!」
エンが泣きながら慌てているとそこに…。
「わーっ!忘れ物しちゃったー!」
向こうから何か慌てている少年の声が聞こえてきた。彼はわがサイトのキャラクター神様の長男のウェットティッシュである。とてもシャイでちょっとピントの外れた父親=神様に悩まされている悩み多き年頃の少年である。
ドスーーーン!!
「きゃっ!」
「わっ!」
ウェットティッシュは目の前に園がいるのに気がつかず、彼女にぶつかってしまった。
「いたたた…」
「ご、ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「あ、ああ…」
ちょうどその頃、公園の片隅の花壇の横の空間に10cmほどの穴が現れ、中から手の平ぐらいの大きさの小人達がゾロゾロと出て来た。
彼らは森に住む妖精コロポックル。いずれも人間で言えば小学校低学年ぐらいの外観だが、どうも魔法で森からこの町へ遊びに来たようである。
「あ〜〜〜〜!!たまに森を離れて都会に遊びに来るってのも良いもんだなあ」
「おい、何か置いてあるぞ」
コロポックルの1人が花壇の縁に置きっ放しにしてある一冊の分厚い本を見付けた。園の失くしたと言っていた例の中国語辞典である。
「ああ、これは『本』と言って、人間世界では知識の源だってジイちゃんが言ってたよ」
「何が書いてある?」
「前の方は意味不明だなあ」
「じゃあ中頃は?」
「さっぱり分らん」
「要するに全然分らんのだろう?」
「よく考えたらオレ字が読めないんだった(笑)」
「…」
「とにかく、このままにして置けないな。この本を持ち主に渡さなきゃ」
「放っとけよ。そのうち自分で取りに来るって」
「もし、置いてた場所を忘れてたらどうする?ジイちゃんが言ってたけど、人間世界では忘れ物や落し物は『交番』って所に届けるんだってさ。みんなでそこへ持って行こう」
「でも、人間に姿を見られたら大変だぜ」
「その為に、この『隠れ帽子』があるんじゃないか」
コロポックル達は懐から帽子を取り出した。一同がその帽子をかぶると、途端に姿が見えなくなった。
「では、交番に向かってレッツ・ゴー!!」
コロポックル達は中国語辞典を担ぎ上げると、その場から前進した。
ひとりでに宙に浮かび飛んでいる本を見て、公園にいる人々が目を丸くしている。
いくら姿を消していても、これでは何にもならない。コロポックルと言えば森の賢者のイメージがあるけど、彼らはやっぱり子供である(と言うより、ただ単に何も考えていないのか・・・:汗)。
ズズズズズ…ズズズズ…
辞典はコロボックルにとってかなり重かった。
「重いよ…!もっと気合を入れろ!」
「手が痺れるよ…!」
「うわあああ!」
中国語辞典の周りに公園の通行人が次々に集まって来た。
「凄い…空飛ぶ本なんて初めて見た」
「もしかしたら生きてるのかもしれないぞ、この本」
「面白いや。どのぐらいの重さに耐えられるか試そうぜ」
通行人達は面白がって、コロポックルの担いでいる辞典の上に小説、雑誌、哲学書、エロ本(汗)など色々な書物を乗せてきた。
「うひゃーっ!!助けてーっ!!」
「キミ、どうしたの?一体、何を泣いてるの?」
「実は…」
園はウェットティッシュに訳を話した。
「そんな大切なものを失くしちゃったのかい?よく思い出してごらん。どの辺まで、その辞典を持ってたのか」
「そういえば公園の花壇の花がきれいだから見とれてると、犬に追い掛けられてここまで逃げて来たんだっけ…」
「それだ。きっと花壇のどこかに置き忘れてきたに違いない」
「でも、この公園には花壇がたくさんあるし、私夢中で逃げてたからどの花壇にいたか分らなくなっちゃった」
「とにかく、片っ端から探して見よう」
気の優しいウェットティッシュ、学校の忘れ物を取りに行く最中だった事も忘れて園の辞典探しに協力した。
2人は公園中の花壇を探していたが、1つの花壇の前に何やら人だかりができているのに気が付いた。
グラグラ…
コロボックルの上にはうず高く積まれた本がのしかかっていた。ピザの斜塔のように今にも崩れそうだったが、寸でのところでバランスを保っていた。
「あっ、危ない!」
「そっちへ移動だ!」
よろめきながらコロボックルは山になった本と一緒に花壇のほうに向かっていた。
グラグラグラ…
本は花壇に向かって崩れ落ちようとしていた。
「お花さんが危ない!」
コロボックルの一人が悲鳴に近い叫び声をあげた。