年明け間も無い、ある早朝の事。人通りも少ない冬の町中を1人の少年が歩いていた。ケムマキケムゾウである。彼の向かう先は何処なのか?
ケムゾウは、町中で最も高い建造物である35階建てのマンションの前に足を止めた。彼は玄関に入るとエレベーターに乗り込み、屋上まで上がって行った。
エレベーターを降りると、ケムゾウは屋上の扉を開けて表に出た。
すると、そこに立っていたのは――
「待ってたぜ、ケムゾウ」
「芥川!!」
屋上にいたのは、ケムゾウの親友・芥川童馬。何故、彼がここにいるのか?
「昨日、お前がこのマンションを下見してるのを偶然見つけてな。その時独り言で朝一番が勝負だとか言ってたから、もしやと思ってオレも来たんだ。でも、どうやらオレの方が早かったようだな。間に合って良かったぜ」
「…」
「お前、空ちゃんの事で神様に会って話し合う気だな?」
童馬の問いにケムゾウは無言で頷き、理由を語った。
「オレは今まで空ちゃん達が権力職に就かされているのは、型にはまった大人達が『警護するのは要人で無ければならない』という理由付けでそうしているんだばかりと思っていた。でも実際それは神様の命によるものだという事が分って、オレは一度神様と話し合わなきゃならんと思った。これは空ちゃんの為だけじゃ無く、現世に住むオレ達自身の問題でもあるんだ。神様にしてみれば王位につけない空ちゃんを気遣っての事かもしれないけど、自分達とは無関係のこの現世で身内を権力者として君臨させるのは、現世の人達にかなり失礼な行為だと思うんだ。例え、それが形だけの事であっても…」
童馬はケムゾウの話を無言で聞いていたが、聞き終えると即座に口を開いた。
「お前が決行しなくても、いずれオレもやろうと思ってたんだ。だから、オレもつき合わせてもらうぜ」
童馬の意外な言葉にケムゾウは驚きの表情を見せたが、すぐに感謝の意を顔に表し礼を言った。
「ありがとう、芥川」
2人は握手を交わした後、天に届けとばかりに大声で叫んだ。
「神様ーーーーーっっ!!」
「神様ーーーーっ!!オレ達、空ちゃんの親友なんですーーーーっ!!」
「出て来て下さーーーーい!!空ちゃんの事で話があるんですーーーーっ!!」
しかし、どんなに叫んでも2人の声が空間に吸収されるだけで、何者も出て来ない。
「やっぱり、名前で呼んだ方が良いんじゃないか?」
「やってみよう」
童馬の提案にケムゾウも同意した。
「ヘンリー様ーーーーっ!!出て来て下さーーーーい!!」
「ヘンリー様ーーーーっ!!」
それでも、やはり何者も出て来ない。
とうとう2人は業を煮やして、思わず叫んだ。
「ヘンリーーーーーッッ!!出て来ーーーーーいっっ!!」
すると突如、異変が起こった。
「な、何だ!?」
天の色がかすみ、桜色の大きな扉が現れた。中からふわりとヘンリーが出てきた。
「やぁ、君達かい?僕の事呼んだのは?」
ヘンリーはケムマキらの決心を知ってかしらずか、呑気そうな表情で構えていた。
「か、神様!!呼び捨てにしてゴメンなさい!!」
「実は空ちゃんの事で話があるんです」